2020.03.31
インタビュー

国連広報センター所長 根本かおるさんに聞く 
SDGsのいま、これから、私たちにできること

Interview:SDGs 私のアプローチ 01
国連広報センター所長 根本かおるさんに聞く
SDGsのいま、これから、私たちにできること

根本かおる氏
国連広報センター所長

民放キー局のアナウンサー、記者を経て、米コロンビア大大学院で国際関係論修士号を取得。1996年から2011年までUNHCR(国連難民高等弁務官事務所)にて、アジアやアフリカなどで難民支援活動に従事。WFP(国連世界食糧計画)広報官、国連UNHCR協会事務局長も歴任。フリージャーナリストを経て、2013年から現職。2016年から日本政府の「持続可能な開発目標(SDGs)推進円卓会議」の委員を務めている。


 

さまざまなジャンルで活躍されている方々に、広くSDGsにどう取り組んだらいいかというヒントを聞くインタビュー企画。

初回は、国連広報センター所長として、多くの人にSDGsへ関心を持ってもらうため情報発信をしている根本かおるさんにインタビュー。ご自身とSDGsのかかわりや、達成のために必要なことを伺います。

そもそもSDGsって、どんなものなの?

はじめまして!根本さんは国連広報センター所長として、SDGsへの関心をもっと多くの方に持ってもらえるよう活動されています。まず、基本的な質問ですが、SDGsとは何か、教えてください。

 

SDGs(Sustainable Development Goals、持続可能な開発目標)は、2015年9月の国連総会で、193の国連加盟国の総意により採択されました。簡潔に言うと、「2030年までに、途上国も先進国も含めた全ての国連加盟国を、持続可能な社会の実現に向けて引っ張っていく世界目標」です。

 

そのような目標をなぜ設定する必要があったのでしょうか?

 

以前は、何か問題があったときに、教育なら教育、保健なら保健というように、分野ごとに目標を立てて別々に取り組むことが通例でした。

しかし、2000年代に入ると、「MDGs」(ミレニアム開発目標)という、国際社会の支援を必要とする課題、主に途上国を対象にした8つの世界目標ができました。例えば、「極度の貧困と飢餓の撲滅」「ジェンダー平等の推進と女性の地位向上」などです。MDGsは一定の成果を上げましたが、途上国だけでなく世界全体が抱える問題を解決するためには、さらなる分野横断的な対応が必要だという認識が高まりました。

そこで、経済、社会、環境に関する課題を統合的に捉えて17の目標を設定し、“たこつぼ”のように分野や国ごとに分断された議論に陥ることなく、世界全体で統合的に課題を解決していこうという考えのもと、生まれたのがSDGsです。これは世界的に非常に大きなチャレンジです。

17の目標それぞれのキャッチコピーを見ていただくと、至極当たり前な話だと感じると思います。しかも非常に分野が広く、なかなか焦点が定まりにくい。これをいかにして伝えるか。政府、国家が中心ではあるけど、企業や市民などあらゆるアクターに関わるものだということを、どう噛み砕けば届けられるかなと試行錯誤するところが、私たち広報を担う人間の、一つの醍醐味でもあります。

SDGsの真ん中には“人権”がある。人と平等について、もっともっと考えよう

根本さんご自身はSDGsの特にどのあたりに共鳴しますか?

 

17の目標全ての根底に流れている、「誰一人取り残さない」という姿勢です。ともすると、大きな制度から漏れてしまいがちな少数者であったり、弱い立場に置かれている人たちに対しても、最初から手当てすることを考えて作り上げていくという。

それは、私自身の信念にも通じるところです。私は小学3年生からの4年間をドイツで過ごしました。そのときに、自分がアジア人として区別、差別されることを経験しました。

また、UNHCR(国連難民高等弁務官事務所)に勤めていたときは、ネパールの現地事務所で、難民という、少数者であるがゆえに故郷を追われた人たちに寄り添った支援活動もしてきました。また、2016年には紛争中の南スーダンを訪問し、国連PKOの活動を視察しました。そのような経験があるので、少数者へのまなざしというものが、自分の中に根強くあるんです。

それからSDGsの人権に対する意識にも強い共感を覚えています。SDGsは、貧困撲滅、経済成長のための世界目標ですが、その中心に人権というのがあるんですよね。狭い意味での人権ではなくて、17の分野すべての礎に人権というものがある。そういったところに大きな意義を感じており、自分の中でのやりがいにもつながっています。

 

課題についてはどのようにお考えでしょうか? 17の目標の中で、特に課題や現状との乖離を感じるような項目があれば教えてください。

 

日本においてもっとも大きな課題を感じるのがジェンダー平等です。日本には女性活躍推進法があり、これを国と企業が一体となって推進しているところです。しかし、国の法律や会社の制度といった形ではなく、「一個人の意識としてどうか」という調査を行うと、圧倒的に関心が薄いのです。電通の生活者意識調査でも、「17のゴールの中で、もっとも日本の生活者の考えや行動から遠い目標」がジェンダー平等だということが分かっています。

ジェンダー平等が実現できない原因の一つには、広告などの影響もあるのではないかと思います。グローバル企業をはじめとする世界の人たちは、肌の色が違うとか宗教が違うとか、明らかに多様な人たちに向けて商品やサービスを販売しなければなりません。多様性の中で、毎日、情報を発信したり受け止めたりするトレーニングを受けているのです。

そういう人たちから見たとき奇異に映る広告が――特にジェンダーの面から見たときに――日本にはまだまだ多くあるのではないでしょうか。SDGsを掲げている会社や広告表現・メディア表現を担う会社は、この点を強く意識し改めて、もっともっとグローバル基準での情報発信をしていかなければならないと思います。そのためには、メディアや広告業界において、女性の決定者を会社の中にもっと増やしていく必要があります。

世界経済フォーラムによる「グローバル・ジェンダー・ギャップ指数」で、日本は121位ですよね。どんどん順位を下げています。これだけやっているのになぜという声もありますが、まだまだ足りません。世界はもっと速いスピードで進んでいるので、多少のことをやっていてもランクが上がらないんです。企業のトップである社長が意識を変えて、役員など責任ある立場の女性を大胆に増やし、多様性に富んだ環境で議論し情報発信をしてこそ意味があるのです。少数者に対する配慮や働き方改革などもSDGsの目標を達成するために重要なことです。ガバナンスやコンプライアンスという点でも恥ずかしくない行動をとっていただきたいと思っています。

企業は“世界基準の取り組み”を、個人は自分でできる“小さなアクション”から

目標達成までの2030年まであと10年です。日本の現状やこれからについて教えてください。

 

目標達成に向けて取り組む企業や自治体などは増えていますが、その規模は小さく、アクションは遅いと感じます。特に世界全体を見たときに、日本は、もっと本質にまつわる議論をしていただきたいですね。

例えば使い捨てプラスチックのごみ問題。生分解性、植物由来プラスチックの開発ももちろん大切ですが、いま問題になっているのは、大変な量のプラスチックが世の中に溢れてしまっていること。世界が「どうやったらもっと減らせるか」と議論をしているときに、日本の関係者はあまりそちらの話をしないんです。気候変動も同じです。圧倒的に増えてしまったCO2排出量、これをどう革新的に減らしていくか。こうした議論が日本でなかなか巻き起こらないのはおかしいなと思います。

プラスチックごみの9割がリサイクルされておらず、毎年800万トン以上のプラスチックがゴミとして海に流れ込んでいる。©UN Photo

日本企業や関係者には、こうした議論をグローバルな仲間と共に行う場に、どんどん入っていってほしいと思うんですね。SDGsの良いところは、世界の共通言語だというところ。世界中のさまざまな企業が、SDGsのゴールを通じてつながっていけるのです。ぜひ臆せず、世界と対話する場に出向いて行って、自分たちの体験や教訓をシェアし、学び合って、高め合っていただきたいなと思います。

今後SDGsに関して広めていきたいこと、取り組みたいことは何でしょう?

 

今年、国連は、設立75周年を迎えます。これを機に未来を見据え、世界中で「国連が100周年を迎える2045年に、どういう社会であってほしいのか」について考える対話を展開することになっています。いま現在順調に進んでいるのか、課題があるとすれば何か、それに対して、自分たちは何ができるのか……。こういったことを話し合う場を、日本でもいろいろな形でつくっていきたいと思っています。それから、スケールアップ、スピードアップですよね。この二つを常に頭に置いて、発信をしていきます。

最後に、これからSDGsに取り組む若い世代に向けてメッセージをお願いします。

 

SDGsの目標の中で、日ごろの生活の中で取り組めるものを、ぜひ一つは見つけてほしいですね。あまり難しく考えなくても大丈夫。私の場合、水はマイボトルで持ち歩き、自分たちが主催するイベントでは必ず登壇者にガラスのピッチャーで水をお出しするようにしています。

また、私が登壇するときは、必ず「登壇者や聴衆のジェンダーバランスはどうなっていますか」とお聞きしています。判で押したように必ず聞くことで、何かしらの気づきを提供し、そして広めることに貢献できるのではないかなあと。そういう“小さなアクション”を、ぜひ一人一人探していただきたいと思います。


 

根本さんのインタビューはウェブ電通報にも掲載されています。

2015年のSDGs採択からこれまでの日本の動きや今の課題、その解決に向けた提言など、こちらの記事では触れられなかった情報も盛りだくさん。ぜひ併せてご一読ください。

https://dentsu-ho.com/articles/7218

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