Interview:SDGs 私のアプローチ14
大切なのは「好奇心」と「イマジネーション」を生かすこと。若者たちが主導する、これからのサステナブル社会
~シブサワ・アンド・カンパニー代表取締役 渋澤健さん

渋澤健氏
シブサワ・アンド・カンパニー株式会社 代表取締役
1961年逗子市生まれ。渋沢栄一の玄孫(やしゃご:5代目の孫)にあたる。父の転勤で小学2年生から大学までの期間をアメリカで過ごし、1983年にテキサス大学化学工学部卒業。その後、日本で国際関係の財団法人に従事したのち、米国でMBAを取得して金融業界へ転身。米系投資銀行で外債、国債、為替、株式およびデリバティブのマーケット業務に携わり、1996年に米大手ヘッジファンドに入社。2001年にシブサワ・アンド・カンパニー株式会社を設立、代表取締役に就任。2007年にコモンズ株式会社を設立、2008年にコモンズ投信に改名し、会長に着任した。現在は、経済同友会幹事およびアフリカ開発支援戦略PT副委員長、UNDP(国連開発計画)SDG Impact Steering Group委員、岸田内閣「新しい資本主義実現会議」有識者メンバー、東京大学総長室アドバイザーなどを務める。
さまざまなジャンルで活躍されている方々に、広くSDGsにどう取り組んだらいいか、ヒントを聞くインタビュー企画。
今回は、シブサワ・アンド・カンパニーの代表取締役・渋澤健氏にお話を伺いました。「日本資本主義の父」と称され、およそ500の会社の設立や経営に関わった渋沢栄一氏の玄孫(やしゃご:5代目の孫)にあたる渋澤氏。現在、投資運用やSDGs・ESGのアドバイザリー業務、企業経営やダイバーシティに関する講演などを幅広く行い、多方面から持続可能な企業づくりに貢献しています。次代を担う若者たちがこれからの社会で活躍したり、サステナブルな社会を実現したりしていくためにはどうすれば良いのか。ご自身の経験も交えながら、そのヒントを教えていただきました。

日本の財団法人での経験が、その後の活動の糧に
――近年、「ミレニアル世代」「Z世代」と呼ばれる若者たちが、SDGsやサステナブル社会の実現に向けてアクションを起こし始めています。渋澤さんご自身は、どのような10~20代を過ごされていたのでしょうか。
私は小学2年生から大学生までの期間をアメリカで過ごしました。日本に帰国後、母方の叔父が立ち上げた「日本国際交流センター」という財団法人で社会人としてのキャリアをスタートしたのですが、これが人生のターニングポイントになりました。
日本国際交流センターは、日本と世界の政策的対話の場をつくって国際社会の課題解決を促す財団法人です。私は事務局のメンバーとして、海外から来る視察団のアテンドなどを担当していました。1980年代当時の日本は「戦後、短期間で急成長した国」というイメージがまだ根強く、経済力もあったため、東南アジアを中心にヨーロッパやアメリカなどからも多くの視察団が来日していました。政治家、官僚、学者、ビジネスリーダー、オピニオンリーダーなど、各国の著名人たちの近くで仕事ができたことは、とても刺激になりましたね。中でも、ソニーの創業者の一人で日本を代表する実業家の盛田昭夫さんをアメリカ視察団のところにお連れしたときのことは、とても印象に残っています。盛田さんは英語が堪能でいらっしゃったわけではないのに通訳なしで話をされていて、視察団のアメリカ人たちは皆、一生懸命に話を聞きながらメモを取っていたんです。その姿を見て、コミュニケーションにおいて大切なのは、語学力ではなく「熱意」であるということを実感しました。
また2013年に、日本国際交流センターの理事長に就任したときは、SDGsの前身である「MDGs(ミレニアム開発目標)」(※)にも取り組んでいて、特にエイズ、マラリア、結核といった疾病の蔓延(まんえん)防止に関する活動に深く関与していました。今思えば、SDGsの原点に携われたことは貴重な経験でした。日本国際交流センターでの仕事を通して、「たった一人の民間人が立ち上げた日本の組織から、世界に対してできることがある」と身を持って知れたことは、とても価値のある経験になりました。
(※)2000年の国際ミレニアム・サミットで採択された「国際ミレニアム宣言」をもとにつくられた、開発分野における国際社会共通の目標。2015年を達成期限とし、極度の貧困や飢餓の撲滅、乳幼児の死亡率削減など、8つの目標が設定された。
若者たちを諦めさせない社会をつくることが不可欠
――SDGsやサステナブルに対する意識は、日本と海外でどのような違いがあると感じていますか?
SDGsという言葉の認知度は、アメリカだけでなく、他の国と比べても、日本はかなり高いです。その背景には、日本では「可視化できるもの」を受け入れやすい傾向があるからだと考えています。ただ漠然と「誰一人取り残さないために頑張りましょう」と言われても、日本人には響かなかったと思うんですよね。「SDGs」というフレームワークができて、わかりやすいアイコンやバッジがつくられたからこそ、日本でもSDGsがこれほど浸透したのではないでしょうか。
また先日、あるイベントでフランス人の経営者が、「ヨーロッパでは、サステナブルに取り組むときに、やると宣言することが先で、細かいプロセスはあとから考える。それに対して日本は、できることとできないことをはっきりさせてから積み重ねて行動に移す傾向がある」とおっしゃっていて、私もその通りだと思いました。結果を重視するか、プロセスを重視するか。どちらのやり方が良いかは一概に言えません。ただ、「ムーンショット」的な考え方がなかなかできていないことは、今の日本の課題の一つとして挙げられると思います。
「ムーンショット」とは、1961年にアメリカのケネディ大統領が「1960年代のうちに人類を月に送る」と宣言した演説のこと。当時、誰もが実現不可能だと考えましたが、アメリカは1969年にその宣言通り、人類を月に送ることに成功しました。理想の未来を描き、そこから逆算して今できることを実践する。SDGsという壮大な目標においても、この考え方は非常に大切です。しかし私は日本人の長所でもある「生真面目さ」が、この「ムーンショット」的に考えるときの妨げになっていると感じているんです。
例えば日本では、年功序列の文化がいまだ根強いこともあって、立場をわきまえた行動や発言をしなければならないと考えられていますよね。そのためグレタ・トゥーンベリさんのように、“立場をわきまえない”発言や行動によって、世界にインパクトを与え、大きなムーブメントを起こすような存在が、日本ではなかなか出てきません。日本にもこのようなアクションを起こそうとしている若者がいないわけではないのですが、すぐに批判の対象になってしまうのが現状です。多少の批判は、自身の行動を客観視するためにも必要かもしれませんが、ネガティブな反応ばかりだと、せっかくポテンシャルを持っている若者たちもつぶれてしまいます。これは本当に私たち大人の責任でもあります。頑張ってほしい若者がいたら、静かに見守るのではなく、批判の声と同じくらいか、できればその10倍100倍のサポートをしていくべきだと思います。SDGsを語る前にまず、若者たちを諦めさせてしまう社会を変えなければならないと強く感じています。

世界と“一緒に”豊かになることを目指す
――大人たちが変わらないといけない一方で、若者たちはどのような心構えでアクションを起こしていけばいいでしょうか?
たとえ大人たちから理解されなくても、諦めないでほしいですね。ただ、一人で諦めずに頑張ることはなかなか難しいと思うので、自分と同じ方向を目指す仲間を探してみるのがいいと思います。デジタルネイティブと呼ばれる若い世代の皆さんなら、自分の周りにいる人だけではなく、地球の反対側の人にだってリーチアウトできるはずです。お互いを刺激し合って高め合っていけるような仲間たちと一緒に、根気強く活動を続けていってほしいと思います。
――渋澤さんが次代を担う若者たちに期待していることを教えてください。
Z世代やミレニアル世代の若者たちには、日本だけではなく、世界の国々と一緒に持続可能な社会を実現してくれることを期待しています。人口減少と高齢化が進む今の日本では、若い世代はマイノリティとされていますが、世界的に見ると人口は急激に増加しています。そのため若い世代の新しい考え方や価値観はこれからどんどん広がっていくと考えています。
しかしその一方で、特に人口が増えている新興国や途上国では、定職に就いて、生計を立て、家族を養うことができていない人たちが大勢いるのも事実です。社会情勢や環境問題などさまざまな課題を抱え、日本で当たり前とされている生活を送ることができない国がまだ多くあります。SDGsは、このような国の人たちを誰一人取り残すことなく、皆で豊かな社会をつくるためにあるものですよね。日本ではこれまで、昭和の時代には「made in JAPAN」、平成の時代には「made by JAPAN(貴方の国でつくります)」のモデルで、社会を築いてきました。しかし、これからの日本の人口動態を考えても、このモデルの延長線上に豊かな未来を描くことはできないと私は考えています。そのため、これからは、「made with JAPAN」、つまり「日本と一緒に豊かな生活や社会をつくっていきましょう」というモデルが必要になってくるでしょう。他国の成長に貢献することが、結果的には日本の成長にもつながるはずです。
デジタルネイティブの若者たちは、インプットする情報の形、質、量が私たちとは異なっていて、見えている世界も全く違うはずです。これまで可視化されていなかった遠い世界で起こっている課題も、今の若者たちはすぐに、掌の上で見て、知ることができますよね。時代の流れに対する感性も明らかに若い世代の方が優れていて、若者たちにしかできないことがたくさんあると感じています。若い世代の皆さんにはぜひ、自分たちの可能性を目に見える範囲でとどめることなく、好奇心とイマジネーションを存分に生かしてほしい。そして、世界と一緒にサステナブルな社会を実現してほしいです。
渋澤氏のインタビューはウェブ電通報にも掲載されています。ポストESGの動きや企業における人材の価値など、こちらの記事では触れられなかった情報も盛りだくさん。ぜひ併せてご一読ください。
https://dentsu-ho.com/articles/8029