2020.05.01
インタビュー

「SDGs」は、学校での学びと社会をつなぐ架け橋になる
~学校デザイナー 山藤旅聞先生

Interview:SDGs 私のアプローチ 04
「SDGs」は、学校での学びと社会をつなぐ架け橋になる
~学校デザイナー 山藤旅聞先生

 

山藤旅聞氏

新渡戸文化学園小中学校・高等学校教諭、学校デザイナー

1980年東京都生まれ。立教大学理学部卒業、同大学大学院生命理学専攻修士課程修了。都立高校の生物の教員を経て、2019年に新渡戸文化小中学校・高等学校の教諭として着任。2017年、未来教育デザインConfeitoを設立。一般社団法人Think the Earthと協働しながら、SDGsを取り入れた出前授業や講演を全国規模で展開している。


 

さまざまなジャンルで活躍されている方々に、広くSDGsにどう取り組んだらいいかというヒントを聞くインタビュー企画。

 

今回は、都内の学校で、SDGsを取り入れた授業を行っている山藤旅聞先生にインタビュー。子どもたちはSDGsをどのように捉え、それに対して大人がどう向き合えばいいのかについて伺いました。

 

 

教育と社会をもっとつなげたい。SDGsはその手段の一つ

 

山藤先生は、都内にある新渡戸文化学園小中学校・高等学校で、SDGsを取り入れた授業を行っていらっしゃいます。なぜSDGsを授業に取り入れようと思ったのか?きっかけを教えてください。

 

僕は都立高校の生物教師を15年間務め、2019年に本校に着任しました。現在は学校デザイナーとして、プロジェクトベースで学校や企業とプロ契約し、教育と社会をつなげる活動を行っています。

学校デザイナーとして僕は、子どもたちの多様な個性が生かせる教育や、社会とのつながりを感じられる授業など、これまでとは違う価値観の教育像をつくりたいと考えています。

そんなふうに自分の教育観を変えたのは、都立高校の教員時代の二つの出来事でした。一つは、ある生徒との出会いです。その子は、「笑顔が似合わない人なんていない。笑顔にとって大事なのは歯だから、私は歯医者になりたい」と、素敵な夢を持っていました。学びに対して貪欲だったのですが、大学受験に向けてすごいスピードで進む授業についていけなかった。結果、多くの教科で卒業ギリギリの評定でした。しかし、宅浪して勉強を続け、1年後には歯学部に合格したんですが、その姿を見て、大人がつけていた「評定」は何だったのか、本当は歯学部合格の実力があったのにその素質を見抜けていていたのか、教員の今までの常識で、子どもの夢を邪魔していないかと感じました。

もう一つは、JICAの教育研修です。ブータンで授業を行ったのですが、「国を豊かにするため」「家族の幸せのため」といった利他的なマインドを持って嬉々として学ぶ子どもたちの姿に驚きました。“学ぶこと”と“生きること”と“幸せ”がつながっている感じがして、これが日本の教育には足りないことだと思いました。

従来の大学受験がゴールの教育ではなく、生徒一人一人が「何のために学ぶのか」を考え、学びが未来へつながっていくような教育をしたい。そのためには、「社会と教育をもっと接続したい」「社会や未来、地球のために活動している多様な大人たちと感性豊かな子どもたちをつなげたい」と思い、2012年ごろからさまざまなステークホルダーとコミュニケーションを取るようになりました。勤務時間外に、企業やNGO、NPO の皆さんが参加されているCSRやCSVの勉強会などによく参加していましたが、2015年ごろにSDGsがよく話題になっていて関心を持ちました。もっと深く学びたいと思い、企業向けの勉強会や大学の講座に1年ほど通い、2016年頃から授業に取り入れていきました。

 

教師としてSDGsのどんなところに魅力を感じたのでしょうか?

 

SDGsはあらゆるものを包括している感じがしました。さまざまな社会課題もそうですし、生徒たちが興味があること、やってみたいことも、SDGsが掲げるよりよい未来につながっている。SDGsを窓にして生徒の好きなことと未来をつなぎ、教科教育を手段化していくことができます。

子どもにとっては、SDGsに触れることで、生きていくために必要な知識を手に入れることができるし、SDGsを軸に大人とのコミュニケーションを深めていけるメリットもある。SDGsにさまざまな魅力を感じ、授業に活用するようになりました。

 

 

生徒の「やってみたい!」という気持ちを、アクションにつなげる

 

SDGsを取り入れた授業とはどのように行っているのでしょうか?

 

4月の授業スタート時は、新聞などを使って社会課題や時流を読み解きつつ、生物の教科書を見て、学ぶ内容と社会課題がどのようにつながっているか生徒と一緒に考えます。そして生徒一人一人がどんなことを深く学びたいか考えてから、学習をスタートします。

僕は本校での授業以外にも、SDGsと子どもたちを結びつける活動を積極的に行っていて、さまざまなステークホルダーとつながりがあります。生徒が関心を持った社会課題に対して、企業や団体が行っているプロジェクトやイベントを紹介したり、こんなステークホルダーと組んだらこんな活動ができると選択肢を提示したりします。生徒には「やってみたいことがあったらいつでも言ってきていいよ」と伝えています。でも、僕から生徒に「この社会課題のプロジェクトを考えて」と強制することはありません。あくまで、生徒自身の「やってみたい!」という気持ちを大事にしています。

生徒は、社会課題に対していろいろな思いを持っていますが、それを形にするには生徒のピュアな想いと大人のプロジェクト化するための力の両方が絶対に必要です。子どもとステークホルダーの間を行き来して、橋渡しをするのが僕の役目です。

 

 

生徒の関心が特に高い社会課題は何でしょうか?

 

さまざまですが、ここ3年ぐらいは、気候変動に危機感を持っている生徒が圧倒的に多いです。近年は、巨大台風や豪雨で大きな災害が起こっているし、インターネットなどで海外の異常気象のことも知っている。地球温暖化について、「何かアクションを起こさないと間に合わない」と、自分ごと化している感覚が強くなっているのを年々感じます。これは小学生から高校生まで共通です。

他に、「つくる責任、つかう責任」という消費アクションは考えやすいようです。消費から食品関係や貧困、地球環境などに紐づけてプロジェクトを考えていく感じですね。

 

生徒は自分が関心を持った社会課題に対して、どんなアクションを起こしていくのでしょうか?

 

大きくは二パターンあります。一つは、社会課題解決に取り組んでいる企業や団体のところへ取材にいきます。話を伺って、こちらのマインドを伝えて、ときにはSDGsを合言葉に「僕たちこういうことをしていきたいんです」と最上位目標を伝えます。会話の中で相手方から「ここらへんが困ってるんだよね」という問題を聞いたら、それを持ち帰って考えてみることもあります。

例えば、オーガニックコットンに興味を持った生徒と一緒に、関連会社を数社、取材しました。その中で、オーガニックコットンの加工でどうしても出てしまう「切れ端」の扱いに困っているということを伺いました。同時期、ジェンダー問題に興味を持った生徒と一緒に、途上国に布ナプキンを送る活動をしているNGOを取材していました。この2つの活動が合わさって、オーガニックコットンの切れ端から、布ナプキンを作成して、途上国に寄付する活動が誕生しました。

自分の「もっと知りたい」という気持ちと、仲間の「もっと知りたい」という気持ち、さらに、それぞれの課題解決に向けて尽力している大人が融合して、新しいプロジェクトが生まれました。そのとき、生徒は「もっと学びたい」「もっと行動していきたい」とみんなの目の色が変わり、社会課題や学びへの関心がぐっと高まるのがわかりました。

もう一つは、生徒が考えたアイデアを企業にプレゼンしにいくパターンです。例えばプラスチック削減のためにマイボトルの自動販売機つくれないかとか、バレンタインデーに地球のことを伝えるコメント付きのチョコレートをつくろうといったアイデアを提案しに行ったこともありました。そうすると、多くの企業は真剣に向き合ってくれますし、僕らの知らなかった新しい課題を知るきっかけにもなり、次のアクションが始まっていきます。

 

いろいろなアイデアが出てくるのですね。企業の反応はどうですか?

 

生徒は発想力が豊かで、僕ら大人が思いつかないような面白いアイデアを出すことも多々あります。企業の方も話を聞いて、「それは一理ある」と納得していただけるアイデアも多いですね。

 

現在進行中のプロジェクトについても教えてください。

 

これまでに60ほどのプロジェクトを行ってきました。現在動いているプロジェクトでは、東京都檜原村の里山保全があります。耕作放棄された畑を開墾して地元の農作物やオーガニックコットンを栽培して、産業化するチャレンジです。この取り組みが評価され、2019年には「環境省グッドライフアワード 環境大臣賞 学校部門」を受賞しました。

 

 

SDGsに結び付いたいろいろな取り組みを行っているのですね。逆に課題と感じているところはありますか?

 

授業の中でSDGsについて考えるだけでなく、授業を飛び越えてプロジェクトをしてみたいという生徒が今は2〜3割ぐらいです。これを5割にして、ゆくゆくは全員がちょっと変容するステージを目指したい。結果的に、学校で学ぶことの意味を自分の言葉で語れるようになり、受験より先の未来に向けて、目を輝かせて学ぶ生徒を教育でデザインできるかというのを今チャレンジ中です。

 

生徒全員が積極的にアクションを起こせることが理想なのですね。直近で何かこれをやってみようと思われているものはありますか?

 

生徒一人一人が大切にしている価値観をすくい上げて、SDGsや、何らかの社会課題の解決に向けてのアクションにつながるようにできればいいなと。そのためには、多様な大人を招いてチームをつくり、いろいろな価値観のもとでコミュニケーションしていくことが大事ですし、生徒が会ってみたいと思う人をもっとつなげていきたいですね。あとは、デザインやクリエイティブに触れたり、学べる授業も未来教育デザインに取り入れていきたいと思っています。

 

山藤先生のお話から、 SDGsに意欲的に取り組む生徒の姿が伝わってきました。そんな子どもたちと一緒に活動をするとき、大人はどう向き合えばいいのでしょう。

 

僕は、プロジェクトをイベント化しないように気をつけています。プロジェクトが単発で終わってしまうのは、大人の主導が強いとき。また、子ども自身に「やりたい!」という気持ちがないと、途中で苦しくなってしまいます。

要は大人がレールを敷き過ぎないこと。アイデアを一緒に考えているときも、大人は知識と経験が豊富なので、子どもよりも先にどんどん話してしまいがちです。子どもが話し出すまで待つ、子どもも大人も同じぐらいの割合で会話する、そんなことを心がけると、大人が思いつかないようなアイデアが子どもから出てくることが多々あります。

答えのない世界の課題について、子どもとコミュニケーションしながら、楽しく取り組んでいこうと思ったら、大人と子どもは対等なパートナーシップを築かなければいけないと思うんです。

そのためには、人として共感し合えることが大事。僕は4月に初めて生徒と会ったときは、パーソナルな話を交えながら、まず山藤旅聞がどういう人間なのか理解してもらうことに努めます。お互いのことを知り対等な関係が築けると、生徒が思い切って自分の考えを言える雰囲気が生まれてきます。

 

 

確かに今の時代は、人も企業もパーソナルな部分への“共感”が、深いつながりを生むようになっていますね。

 

エネルギーに溢れ、発想力も豊かな子どもたちは、SDGsの取り組みの中で、大きな存在感を発揮するはず。ぜひ子どもたちの話に耳を傾け、一緒に活動する機会を増やしていっていただければ嬉しいですね。

 

 


山藤先生のインタビューはウェブ電通報にも掲載されています。子どもとSDGsを結びつけるために必要なことなど、こちらの記事では触れられなかった情報も盛りだくさん。ぜひ併せてご一読ください。

https://dentsu-ho.com/articles/7262<https://dentsu-ho.com/articles/7271

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