Interview:SDGs 私のアプローチ 05
学びと成長をもたらす「学生×企業」のSDGsプロジェクト
~慶應義塾大学「xSDG・ラボ」代表 蟹江憲史教授

蟹江憲史氏
慶應義塾大大学院 政策・メディア研究科研究室 教授
地球温暖化や気候変動の問題を中心に、地球環境ガバナンスの問題を研究。同大SFC(湘南藤沢キャンパス)研究所 xSDG・ラボ代表。国連大サスティナビリティ高等研究所シニアリサーチフェロー、東京大未来ビジョン研究センター客員教授、日本政府SDGs推進本部円卓会議委員、内閣府地方創生推進事務局自治体SDGs推進のための有識者検討会委員などを務める。
さまざまなジャンルで活躍されている方々に、
広くSDGsにどう取り組んだらいいかというヒントを聞くインタビュー企画。
今回は、慶應義塾大教授であり、同学に設置された「xSDG・ラボ」の代表でもある蟹江憲史氏に、学生と企業とのコラボレーション事例や、そこで生まれる学びとイノベーションについてお話しいただきます。
インドネシアで感じた“格差”が、研究の原点になっている

写真:市村円香
蟹江さんは、慶應義塾大をはじめとするさまざまな教育研究機関、民間企業などで、環境問題に関する研究やSDGsに関連する取り組みを推し進めていらっしゃいます。そもそも、どのようなきっかけでSDGsに出合われたのでしょうか? 昔から環境問題に興味があったのですか?
もともとは国際関係に興味を持っていました。小さい頃、インドネシアに住んでいたことがあり、そこで、経済的に豊かな暮らしをしている日本人と、貧しい暮らしを強いられているインドネシア人の格差を目の当たりにしたのがきっかけです。
貧富の差だけでなく、教育や医療など、あらゆる格差があり、そこに強い違和感を抱き続けていて、やがて国連などの国際機関について勉強するようになりました。そこから、温暖化に対する外交問題などに興味と学びの対象が広がっていき、環境問題に向き合うようになって、研究を深める中でSDGsに出合いました。
現在は慶應義塾大の湘南藤沢キャンパスで「xSDG・ラボ」を主宰されているとのこと。どんな活動をされているのか教えてください。
SDGsに関する研究や、企業や自治体などとコラボレーションした実践的なプロジェクトに取り組んでいます。
研究や調査は、主に「xSDG・ラボ」のなかにある研究コンソーシアムで行っています。「xSDG・ラボ」のxSDGコンソーシアムとは、企業や自治体などと私たち研究者が一緒になって課題の解決を目指す枠組みのことです。
現在は、ここに、約20社の企業、三つほどの自治体に登録していただいています。他に、外務省や環境省といった政府関係の方々もオブザーバーとして参加してくださっているんですよ。多様な組織、多様なメンバーで、例えば、「プラスチック問題を解決するための提言」をまとめたり、FSC(Forest Stewardship Council/森林管理協議会)やMSC(Marine Stewardship Council/海洋管理協議会)などによる国際的な認証制度とSDGsの関連を明らかにする活動を行ったりしています。
良品計画などと協働し、SDGsの達成に向けた取り組みを実践!
「xSDG・ラボ」で取り組まれている「企業や自治体などとコラボレーションした実践的なプロジェクト」とはどのようなものなのでしょうか?
企業や自治体と一緒に、実際にビジネスや社会改善に結び付くSDGs活動を行っています。これまでに、良品計画、楽天、国際航業、ESRIジャパン、TREEなどの企業と、例えば「サステナブルの買い物を実現するための商品選定基準づくり」や「SDGs基準で商品を分析・評価する」取り組みなどを行いました。
その他、兵庫県豊岡市と協働で、人口減少が進む地区を住み続けられるようにするための分析・実践をしたり、愛知県や静岡市と、SDGsを組み込んだ街づくりの指標を策定するなどの活動をしています。
良品計画とは、2018年から、「感じ良い社会の実現に向けたSDGsの戦略的実現モデルの創出」と題した共同研究に取り組んでいます。このプロジェクトは、生活者や社会の「役に立つこと」を軸にして生み出されている無印良品の商品や活動について、改めて、SDGs的な視点で「できていること」と「できていないこと」を整理していこうというもの。
私たちxSDG・ラボは、商品の分析や調査の部分をお手伝いしました。分析・調査やディスカッションを重ねる中で、例えば「商品自体はオーガニックコットンなどの素材でできていてSDGsを踏まえたものになっているけれども、製造の課程で石油燃料も使われている」ということが分かったり、「枯渇性エネルギーではなく再生可能エネルギーを使えば、もっともっとSDGsに近づくことができる」という可能性に気付けたり…。改めて精査することで「まだまだできることがある」と知ることができて、非常に有意義な取り組みだったと感じています。
他に、我々の研究をベースに、SDGsに貢献するようなエシカルな商品をセレクトして販売するECサイトを立ち上げるIT企業もありました。私たちが携わったのは、国際認証制度がどのようにSDGsに貢献するかを検証するところです。認証制度のいくつか(MSC認証、FSC認証、国際フェアトレード認証など)をピックアップし、これらがどのようなSDGsに貢献しているかを明らかにしました。そうした検討をもとに、認証を取得している商品を中心に販売するECサイトができました。
MSC認証…資源の持続可能性や環境に配慮した漁業で獲られた水産物に与えられる、通称「海のエコラベル」といわれる認証。MSC(Marine Stewardship Council 海洋管理協議会)が運営・管理。
FSC認証…適切に管理された森林と、そこから生産される木材や木材製品を認証し、持続可能な森林を守るための制度。FSC(Forest Stewardship Council® 森林管理協議会)が運営・管理。
国際フェアトレード認証…開発途上国の生産者や労働者の生活改善と自立を目指し、原料や製品が公平な条件で取引されているかを審査して認証する制度。国際フェアトレードラベル機構が運営・管理。
各認証団体のオーナーと一緒にディスカッションや調査をしてSDGsと認証とのつながりを明確にしていきました。
例えばFSC認証なら、「直接的に関連するのはSDGsの目標15『陸の豊かさも守ろう』だけれど、目標1の『貧困をなくそう』や目標8の『働きがいも経済成長も』という項目も関連するよね」というように、各認証とSDGsとの関連性を丁寧に整理しています。
こうした活動を年間通して行い、「大学という閉じた研究機関だけでなく、多くのステークホルダーを巻き込んで」「開かれた形で」行っているところが特徴です。
理想と現実のせめぎ合い。それが難しさであり、やりがいでもある
「xSDG・ラボ」の活動には、多くの学生が関わっています。学生たちは、どのような意識でSDGsに取り組んでいるのでしょうか?
純粋に「面白そう」「いろんなことができそう」だと思って入ってくる学生が多いように思います。今の学生は、10歳ぐらいの多感な時期に東日本大震災を経験している世代なんですよね。だからでしょうか、あまり構えることなく、自然と、SDGsのような社会課題に取り組む姿勢が身に付いている。「よいことをする」ことに興味関心が高く、お金よりも社会や世界のために生きたいと考える人が多いと感じます。
企業と一緒にSDGsに取り組むことで、学生にとって、どのような発見や学びがあるのでしょうか。
理想と現実のせめぎ合いというか、理論と実践の違いというか…。企業の方々と議論することで、頭で考えているだけでは分からない、“SDGsを浸透させることの難しさ”を学び取っているようです。そこにやりがいや課題を見出して伸びる生徒もたくさんいます。なかには、地方自治体におけるSDGsの推進に強い関心を持つようになり、SDGsの先進モデルとして知られている北海道下川町にインターンに赴いた学生も。行政と一体になって国際的な発信をするお手伝いをしたり、町のSDGsマップを作成したりと活躍しました。
僕が学生によく話しているのが、「われわれはSDGsの研究者なのだから、『SDGsの観点でこうだ』ということをしっかり提示しなければいけないよ」ということ。企業の人たちは、やっぱり自分たちの利益が前提としてあるわけですから。
企業の活動は、SDGsに向かっているような向かっていないような感じで、揺れていることが多いのですよね。だからこそ、学生を含む研究者が参加する意義がある。利益と社会貢献をいかにバランスよく両立させていくか、そういう難しい課題に、SDGsの研究者たる知見と意志を持って関わっていく…。企業とともにSDGsに取り組むことで、こういう意識や姿勢が育っていくと考えています。
これからSDGsに関わろうという若者に向けて、なにかアドバイスやメッセージなどはありますか?
若い人には、柔軟な発想という武器があります。下手に背伸びをしないで、そのアイデアを素直に出すということをやっていくのが大事だと思いますね。企業やそこで働く大人というのは、さまざまなしがらみに縛られていることが多いものです。そこに新しい視点を持ち込めるというのが若者の強みだと思うので、ぜひ自分たちの発想を起点にして、それをどうやったら実現できるか考え実行してもらいたい。とにかく、大人の論理に負けないようにしてほしいなと思っています。
それから、トライ&エラーの“エラー”をたくさんしてもらいたいなと思います。エラーがめいっぱいできるのは学生の間だけですから。果敢にトライし、失敗して、経験を積み重ねていってほしいですね。
SDGsへの扉は、議論とバランスを追求することで開かれる
蟹江さんは、個人的にもSDGsに取り組まれているとお聞きしました。具体的にどんなことを実践されているのでしょうか?
SDGsにとことんこだわって自宅を建てるというプロジェクトに取り組みました。
例えば、住宅の構造材や仕上げ材に三重県尾鷲の「FSC認証材」を使用したり、一つも釘を使わずにベッドが組み込まれた木製の本棚を設えてみたり。慶應義塾大で街づくりについて研究されている小林博人先生や、建築家であり東京工業大の助教(当時)でもある川島範久先生、そして家族などと相談しながら、材料、設計、家具、建築のプロセス、すべてにこだわって、ゼロから、SDGsに最適化した家を建設しています。

このプロジェクトを通して、多くの関係者と徹底的に議論をしながら合意形成をすることの大変さと重要性、お金の制約の大きさを実感し、「まさに『xSDG・ラボ』で取り組んでいる活動と同じだなあ」と思ったことを覚えています。
個人レベルの活動であっても、企業、国、世界レベルの活動であっても、SDGsに取り組む上での本質というのはすべて同じだと思うんですよね。「関わる人すべてが、フラットな立場で議論し合意を積み上げていくこと」と「利益、コスト、経済活動と社会貢献のバランスをうまく取りながらサステナブルな仕組みとは何かを考えていくこと」。こうしたことが必ず必要で、まずはこれをしっかり追求することが、SDGsの扉を開くのではないかなと思います。
今、世界は、新型コロナウィルスの脅威にさらされています。今後は、これによって期せずして起きているトランスフォーメーションを一過性のものにしないということも大切になってくると思います。
コロナの影響でいろいろなところにひずみが起きてしまっているのは、そもそもこれまでの社会がサステナブルなものになっていなかったからだと思うのです。例えば、雇用形態の問題。もともと不自然な形であり、ひずみがあったから、今こうして、非正規労働者などの弱い人たちに負荷がかかってしまっているのだと思います。
テレワークへの移行など働き方の問題にしても、柔軟にシフトできた企業の中には、コロナの前から、サステナビリティーを考えて動いていたところもあったのではないでしょうか。
だからこそ、コロナによって浮かび上がってきたさまざまなひずみを是正し、定着させなければならないと思うのです。ここでかじ取りを間違ってしまうと、私たちはまた、CO2を吐き出しながら大量生産大量消費を行う方向に進んでしまう。ですから、SDGsへの取り組みを大切にして、新しい仕組みをつくり、それが当たり前のように機能し続ける社会にしていかなければならいのだと思います。
蟹江さんのインタビューはウェブ電通報にも掲載されています。企業が学生とつながるために必要なことや、コロナ禍で世の中が変わる今、考えたいことなど、こちらの記事では触れられなかった情報も盛りだくさん。ぜひ併せてご一読ください。
https://dentsu-ho.com/articles/7320