Interview:SDGs 私のアプローチ12
ラグビーから学んだ「まずはやってみる!」のマインドで、
アスリートのキャリア支援に取り組む
~株式会社HiRAKU 代表取締役 廣瀬俊朗さん

廣瀬俊朗氏
元ラグビー日本代表キャプテン。株式会社HiRAKU 代表取締役。
5歳からラグビーを始める。高校日本代表、U19日本代表を経験し、2004年に東芝ブレイブルーパスへ入団。2007年に日本代表に選出され、2012年から2013年までキャプテンを務めた。2016年に現役を引退。2019年には、ビジネス・ブレークスルー大学大学院を卒業しMBAを取得、株式会社HiRAKUを設立した。また同年、ラグビーワールドカップ2019のアンバサダーを務め、TBSドラマ「ノーサイド・ゲーム」に出演したことも話題に。2020年より日本テレビ系列「news zero」に木曜パートナーとして出演中。
さまざまなジャンルで活躍されている方々に、広くSDGsにどう取り組んだらいいか、ヒントを聞くインタビュー企画。
今回は、元ラグビー日本代表キャプテンの廣瀬俊朗さんにお話を伺いました。廣瀬さんは現在、コロナ禍の学生アスリートを支援するプロジェクト「#スポーツを止めるな」をはじめ、さまざまな社会貢献活動やアスリート支援に取り組まれています。セカンドキャリアのデザインが難しいと言われているアスリートの世界で、引退後も新たな挑戦を続ける廣瀬さん。新しい世界に飛び込み、仲間とともにアクションを起こす姿勢は、SDGsに取り組む際にもヒントになるはずです。現在の取り組みやスポーツ業界の課題、そして「周囲を巻き込む」ための秘訣などをお聞きしました。

「一般社団法人スポーツを止めるな」共同代表理事・廣瀬俊朗さんと、同メンバーで元バレーボール日本代表の益子直美さん。
引退後も自分らしく生きるために「挑戦する道」を選んだ
――廣瀬さんが現在のような取り組みを始めようと思われたきっかけを教えてください。
2019年に始めた「スクラムユニゾン」 が一つのきっかけだったと思います。このプロジェクトは、2019年のラグビーワールドカップ日本大会で、「世界19カ国から来る選手やファンを、その国の国家・アンセムを歌っておもてなしをしよう」とスタートしたものでした。そこで実際に皆さんと国歌を歌い、さまざまな国の人たちが喜んでくれている姿を見て、僕自身本当に、最高だな、幸せだなと感じたんです。お金よりも「理念」や「想い」を大事にしたプロジェクトだったからこそ、皆さんに賛同してもらえたと思いますし、より活動を進めていきたいと思うきっかけの一つにもなりました。
現在も、「教育」や「リーダーシップ」という軸はあるものの、やりたいことが明確に決まっているというわけではなくて……。いろいろな人と関わる中で、面白そうだなと思うことが見つかって次の道が開けてくる、という感じなんです。その中で、いいなと思ったことは「まずはとにかくやってみる」ということをとても大事にしています。実際にやってみると、頭で考えていたものとは全然違ったり、初めて見えてきたりすることがたくさんあります。僕が思い切ってアクションを起こすことができるのは、長年スポーツをやってきて、体感することの大切さを知っているからかもしれません。
――引退後、廣瀬さんのようにすぐにアクションを起こしてやりたいことにチャレンジしたり、現役時代からセカンドキャリアを考えたりしているアスリートは多いのでしょうか?
セカンドキャリアを明確に思い描いているアスリートは少なく、これはスポーツ界における課題の一つだと感じています。そもそもスポーツの世界ではいまだに「現役中にセカンドキャリアのことを考えていると、競技に集中していないと捉えられかねない」という風潮があるように思っていて……。しかし実際は、突然引退を余儀なくされ、引退後、どう生計を立てていけばいいのか悩むアスリートも少なくありません。準備ができていなかったせいで本当に自分がやりたかったことができないのはとてももったいないことですよね。
また、セカンドキャリアの課題は競技によっても異なるため、自分たちの競技特性や強みを知っておくことも大切です。例えばトップリーグが「企業スポーツ」であるラグビー(※)は、引退後もそのまま会社で働く人が多いことが特徴です。また競技中、自分たちで考えてプレイをすることが多く、決断力や判断力を鍛えるトレーニングをしてきていることは強みと言えるかもしれません。キャリア支援では、このように「自分たちの競技特性や強みは何か」ということを、競技の枠を超えて現役、OB・OGのアスリートたちがあらためて考えられるような機会にしたいと思っています。
僕自身は、引退後も自分らしく「挑戦する道を選んでいきたい」と思って、ビジネスを始めました。サッカーでは本田圭佑さんや中田英寿さんのようにビジネスをされている方がいますが、他の競技ではまだ少ないと感じていて……。元アスリートがビジネスをするのは簡単ではないかもしれないけれど、だからこそ面白くて意義のあることだと思ったんです。僕がこれからも挑戦を続けることで、次世代のアスリートたちがセカンドキャリアを考えるきっかけになったり、よりよい環境で働いたりすることにつながればいいなと考えています。
※2022年1月にプロリーグが発足。
コロナ禍の学生アスリートを支援する「#スポーツを止めるな」
――学生アスリートのキャリア支援活動として現在廣瀬さんが取り組まれている、「#スポーツを止めるな」について教えてください。
「#スポーツを止めるな」は、コロナがきっかけで競技をやめてしまう学生アスリートを、一人でも食い止めたいという想いから始まったプロジェクトです。コロナ禍でスポーツの大会が軒並み中止になり、学生たちは「次のステージ」である大学や実業団などに、自身のプレイをアピールする機会を失ってしまいました。このままでは、競技を続けることをあきらめる学生が増えるかもしれず、スポーツ界の大きな損失になりかねません。また、学生アスリートたちの「モチベーション向上」もこのプロジェクトの目的の一つ。学生たちが「スポーツをやっていて良かった」と少しでも思えるよう、僕たち大人が何かできればという想いもありました。
具体的な活動としては大きく三つです。一つは、オンラインプラットフォーム「HANDS UP」を使った取り組み。学生たちが自身のプレイ動画を「HANDS UP」に登録し、大学や実業団の関係者にアピールしようというものです。二つ目は、予期せず急に引退が訪れてしまった学生たちに対して「思い出の試合」に、トップアスリートが解説をつけてプレゼントする「青春の宝」プロジェクト。三つ目は、現代を生きるために必要だけど学校では教えきれない領域をトップアスリートの経験や専門家の知見を生かして学生たちに伝える教育プログラムです。
――活動の中で廣瀬さんが印象に残っていることはありますか?
この活動を通して、特にうれしかったことが二つあります。一つは、「HANDS UP」の取り組みを始めてすぐに自身のプレイ動画を登録してくれた学生が、大学側からの誘いを受けて、進路が決まったことです。その子もとても喜んでくれましたし、この取り組みがなければ道が閉ざされていたかもしれない学生を一人救うことができたと思うと、僕自身もめちゃくちゃうれしかったですね。もう一つは「青春の宝」プロジェクトで、プレゼントした動画を見た学生たちが、喜んでくれたこと。春の大会がなくなり、挑戦できずに引退してしまった子どもたちがこのプロジェクトをきっかけに秋の大会までプレイを続けたという態度変容がありました。山口県立宇部高校というトップ校は秋の大会には参加しない慣習だったそうです。我々のプロジェクトのあとに3年生たちが話し合い、自分たちの意思で決断したと聞きました。こういう学生たちの自立した姿を目にするときに、この活動を始めてよかったと思えます。これからも「学生たちのために何ができるのか」を一番に考えて、仲間たちと活動を続けていきます。
世の中の常識にとらわれず、「自分がどう生きたいか」を考えてほしい
――「#スポーツを止めるな」はSDGsにもつながる活動だと思いますが、廣瀬さんご自身は意識されているのでしょうか?
もともとSDGsを意識して活動を始めたわけではないのですが、自分のやりたいことや、やっていることが自然とSDGsに当てはまっているという感じですね。例えば「#スポーツを止めるな」の他に取り組んでいるプロジェクトとして、「TEAM FAIR PLAY」があります。スポーツの「フェアプレイ」を社会のあらゆることに広めていこうという想いから始まったもので、環境問題や食、地方創生など幅広い領域で取り組んでいて、これも結果的にSDGsにつながる活動になっていますね。どの活動にも、根底には「みんなで楽しいことをしたい」「次世代の子どもたちや未来のために行動したい」という想いがあります。それは、長年ラグビーをやってきて、「自分たちだけが良ければいい」という発想がなくなり、みんなで面白いことをするのがいいことなんだ、楽しいことにつながるんだということを、身をもって体験できたことが大きいと感じています。

次代を担う学生たちと積極的にコミュニケーションを取り、活動を行っている廣瀬さん。
――廣瀬さんは周りを巻き込むのがとてもお上手だと感じたのですが、何か秘訣はあるのでしょうか?
上手かどうかは皆さんに判断していただきたいのですが……(笑)。自分には知らないことがたくさんあるので、皆で知識やアイデアを寄せ合って楽しいことをやっていきたいと思っていることは、一つのポイントかもしれません。例えば「TEAM FAIR PLAY」では、活動の方向性は皆と一緒に決めたのですが、具体的に何をどう進めていくのかというところは、皆さんの知見に頼っているんです。それぞれが花開くところで自分の役割を果たしながら面白いことをする。そんなふうに何かをするのが僕自身、すごく好きなんだと思います。そう考えるようになったのも、ラグビーをやってきたことが影響していると感じます。ラグビーにはたくさんのポジションがあって、自分だけうまくプレイできたとしても、他のポジションの選手が一切活躍できないこともあります。皆がそれぞれの役割を果たすことができたときに、初めて「いいラグビー」ができるんです。それを体験してきたことが、今の自分の考えの原点になっているのかもしれません。
――最後に、若い世代に向けてメッセージをお願いします。
一番伝えたいのは、自分自身の「ものさし」を持ってほしいということです。世の中や企業の「ものさし」だけにとらわれず、自分がどう生きていきたいのか、どうありたいのかを、ぜひ模索していってほしいと思います。そしてその「ものさし」を持つためには、ちょっとした学びやアクションを起こすことが大切。体感することは自分自身の財産になると信じて、どんなこともまずはトライしてみてほしいです。

廣瀬さんのインタビューはウェブ電通報にも掲載されています。アスリート×ビジネスから生まれる新たな可能性や、ご自身が考えるリーダーシップやキャプテンシーについてなど、こちらの記事では触れられなかった情報も盛りだくさん。ぜひ併せてご一読ください。
https://dentsu-ho.com/articles/7918