コンタクトレンズの製造販売を手掛ける株式会社シード。同社では現在、プラスチックを再資源化するために2つの取り組みを行っています。それが、使い捨てコンタクトレンズの空ケースを回収して物流パレットにリサイクルする「BLUE SEED PROJECT」と、コンタクトレンズの製造工程で出される混合廃棄物を選別するリサイクルシステム「ドックス」の運用です。
今回は、同社のコーポレートコミュニケーション部 部長・金澤寛子さんにインタビュー。それぞれの取り組みを始めた経緯や進めていく上での苦労、社内で浸透させていくために工夫したことなどについて、お聞きしました。
金澤寛子氏
株式会社シード コーポレートコミュニケーション部 部長
銀行で融資業務、製紙メーカーで物流・経営企画業務に携わった後、2010年に株式会社シードへ入社。経営企画部にてIR、PR、CSR関連業務を経験。現在はコーポレートコミュニケーション部の部長として、コーポレートブランディング、PR、SDGsの推進含むサステナビリティ関連業務、マーケティング等の管理運営業務に従事している。
サーキュラーエコノミーの実現にこだわった「BLUE SEED PROJECT」
━━まずはBLUE SEED PROJECTについて教えてください。このプロジェクトはどのような経緯で始まったのでしょうか。
当社では、ごみを分別して捨てることがリサイクルの第一歩になると考えているので、社内で出したごみの分別とリサイクルにはもともと力を入れていました。さらに社内だけではなく、私たちの商品が生活者に渡ったあとの「捨て方」に関する啓発活動も行っていました。その中で、生活者が捨てるコンタクトレンズの空ケースを資源としてもっと有効活用できないかと考え、2019年から始まったのが、BLUE SEED PROJECTです。
そもそも私たちが販売するコンタクトレンズは医療機器なので、プラスチックを使わずにつくるのは難しいこと。しかし医療機器だからこそ、清潔さが保たれる仕様になっていたり、純度の高い素材を使って丈夫につくられていたりして、素材優位性が非常に高いともいえます。そのため、そのまま捨ててしまうのはあまりにももったいないんですよね。またBLUE SEED PROJECTでは、プラスチックを1度だけリサイクルして終わるのではなく、資源として何度も利用できるよう、サーキュラーエコノミーを構築するところまで実現させたいと考えていました。
そこで当時から付き合いのあったリサイクル業者に相談したところ、「サーキュラーエコノミーを構築したいなら、私たちよりもっと適した業者がいるよ」とヴェオリア・ジャパン株式会社(以下、ヴェオリア)を紹介してもらったんです。その後、3社でも話し合い、最終的にはヴェオリアと一緒にプロジェクトを進めていくことになりました。今振り返ると、最適な会社を紹介してもらえたことはとてもありがたかったですね。環境施策は一社でできるものではなく、さまざまな会社が得意分野を生かして協力しながら、最善の方法を考えていくことが大切だと実感しました。
━━具体的には、どのようなサーキュラーエコノミーを構築されたのでしょうか。
生活者が使い捨てコンタクトレンズの空ケース(ブリスター)を協力施設に持って行き、そこで回収した空ケースをヴェオリアに販売して、物流パレットの強化剤として生まれ変わらせることにしました。

しかし当初、社内では「物流パレットって地味じゃない?」という声もあって……(笑)。眼科でコンタクトレンズを収納するケースやボールペンなど、自分たちの事業に近いものやもっとわかりやすいものにしようという案もありました。しかし物流パレットは、もろくなると粉砕され、再び空ケースを強化剤として使ってつくりなおして……というふうに、延々と循環させることができるんです。そのため、私たちが理想とするサーキュラーエコノミーを実現するためには、物流パレットが最も適していると考えました。また物流業界でプラスチックの物流パレットの需要が高まっていることも、選定した理由の一つでした。現在は物流パレットが一番だと考えていますが、今後もし他にいいアイデアをいただければ、ぜひ検討したいと思っています。
━━生活者へ活動を周知するために行っていることを教えてください。
まずは空ケースの回収拠点を増やすことがとても大事だと考えています。現在は、ありがたいことにコンタクトレンズ専門店様や眼科様が主な回収拠点としてご協力してくださっています。そして、この活動を紹介し、協力施設様を増やしてくれているのは営業社員です。そのため、まずは営業社員に、プラスチックごみの問題やプロジェクトの意義を理解してもらうことが必要だと考えています。そこで現在、会社全体の研修はもちろん、少人数のグループでも研修を行っていて、質問を受け付けたり、実際にどういう形であればお客さまが参加しやすいかなどをヒアリングしたりしています。施設によって回収ボックスを置けるスペースなどは異なるので、営業社員の力を借りながら、各施設に適した回収方法を考えたりPOPを作成したりしています。

BLUE SEED PROJECTのディスプレイ
また3校の大学と一緒に活動も行っていて、ボランティアサークルの学生と校内にボックスを設置して回収活動をしたり、マーケティング系のゼミの学生と校内にプロジェクトを周知する方法を検討したりしているところです。そのほか、取引先の企業がCSR活動の一環として、自社で空ケースを回収するところも増えてきています。こうした取り組みに加えて、メディアで取り上げてもらう機会もあり、回収拠点はプロジェクト開始当初から大幅に増加しました。2022年11月現在、コンタクトレンズ専門店・眼科476カ所、企業21カ所、学校4カ所の、合計501の回収拠点を設置しています。今後も回収拠点をさらに増やしながら、全国で活動を広めていきたいと考えています。
現場の声をきっかけに、廃プラスチックを再資源化するシステム「ドックス」を開発
━━続いてドックスについても、どのような経緯で開発されたのか教えてください。
ドックスは、コンタクトレンズの製造工場で排出される、プラスチックやアルミなどの混合廃棄物を選別するためのシステムです。これまでリサイクルできていなかった混合廃棄物を、光学式選別などの技術を組み合わせることでそれぞれの素材に分別し、再資源化を実現しています。このシステムは、当社の現場担当者が感じていた課題意識から、ボトムアップで開発に至りました。

そもそも、社員たちが環境への意識を高める大きなきっかけになったのが、13年ほど前に鴻巣工場を建てたことでした。鴻巣工場はリサイクルを意識した建て方をしたり、太陽光パネルを設置したりと、当初からかなり環境に配慮して建てた工場です。環境施策といえば、財務的なところとトレードオフになると思われがちですが、私たちは環境施策に取り組むことが、製造効率を上げたり材料の無駄をなくしたりすることにつながると考えていました。この考え方が、社内でも早くから浸透していたんです。
こうした背景もあり、当社のコンタクトレンズの製造工場が排出していた産業廃棄物について、現場では以前から「価値あるものとしてリサイクルできないか?」という課題意識を持っていました。さらにドックスを開発するきっかけの一つになったのが、2017年に中国が生活由来の廃プラスチックの輸入を禁止したことでした。これにより、当社がもともと有価物として扱っていたものもお金をかけて処理しなければならない産業廃棄物になり、環境問題としてはもちろん、財務的な側面からも解決すべき問題になったんです。そこで、当時からプラスチック廃棄物の処理業者として付き合いのあった株式会社ダイトク(以下、ダイトク)に相談し、リサイクルの方法を一緒に考えていくことになりました。
リサイクルの方法を模索する中で、私たちが注目したのが「素材の選別」でした。マテリアルリサイクルを実現するには素材をきちんと分けることがとても大切で、当社でもきれいに分けられる素材については、社内でリサイクルするための仕組みがすでにできていました。しかし、製造工程で出されるポリプロピレン、アルミ、コンタクトレンズ片の混合廃棄物は、まだリサイクルするすべがなかったんです。そこで混合廃棄物を選別するための方法をダイトクと協力しながら研究・開発をしていくことになりました。こうして完成したのが、シード専用の高度リサイクルシステム、ドックスです。

ポリプロピレン、アルミ、コンタクトレンズ片が混ざった粉砕材
ドックスでは、遠心分離、送風による異物除去、光学式選別といった技術を組み合わせて、ポリプロピレンとアルミを選別します。選別・分離された素材は、ポリプロピレンは文具や自動車部品などのプラスチック製品へ、アルミは再びアルミへ、残ったコンタクトレンズ片は産業廃棄物として固形燃料へと、それぞれ生まれ変わります。
ドックスが運用を本格的に開始したのは2021年4月。現在は廃棄物のリサイクルをほぼ100%実現していて、2022年度で約800トン削減できるようになると想定しています。

シード専用のリサイクルシステム「ドックス」
━━開発を進めていく中で特に苦労したことを教えてください。
現場の担当者が特に苦労していたのが社内浸透です。当社からダイトクの工場に運ぶ混合廃棄物は、粉砕機にかけて細かくする必要があるのですが、そのときに廃棄物が粉砕しきれていなかったり、ドックスで選別できないものが混じったりすることがないよう、社員たちへ周知徹底しなければなりませんでした。そのため担当者は、リサイクルするために必要な作業について、社内で何度もお願いしながら伝えてくれました。
またドックスは2017年に開発がスタートし、実際に運用が始まったのは2021年と、かなり長い時間がかかっていて、開発の過程でも苦労は多かったと思います。しかしその分、当社とダイトクは今も良い関係を築くことができています。「本来捨てるものを資源にできる」というのは夢のある話ですし、現場でも楽しみながら取り組んでくれていたのかなと感じています。
ドックスに限らず、活用できる資源はまだまだ社内に眠っているはずです。私がいる部署は確かにSDGsを推進する部署なのですが、会社の一つ一つの仕事すべてに従事できるわけではありません。社内のどこにチャンスがあるのか、担当者でなければ把握できないところもたくさんあると考えています。そのためドックスのような事例を、「ビジネスチャンスになる」「環境配慮する企業としての責務である」と伝えることはもちろん、「夢のある話」として伝えていくことで、ボトムアップのプロジェクトを今後も増やしていきたいと考えています。
コンタクトレンズの役割を発揮できる「健やかな環境づくり」に取り組みたい
━━シードがSDGsに取り組む理由はどのようなところにあるのでしょうか。
当社はもともと医療機器メーカーなので、自社の社会的意義を考えると、本業そのものがSDGsの達成につながると考えています。私たちの事業が社会のためでありたいという気持ちが強いのは、業界特有ともいえるかもしれません。またコロナ禍では、マーケットが縮小した時期もあって、コンタクトレンズの役割をあらためて考える機会にもなりました。コンタクトレンズは日々の生活を快適にしてくれるものですが、たとえどんなにいい商品であっても、「心身ともに健やかでいられる環境」がなければ、本来の役割を発揮することができません。そのため、コンタクトレンズの役割を発揮できる環境そのものをつくったり、維持したりする重要性も常に意識しなくてはならないと感じています。
━━今後の展望や注力していきたい活動について教えてください。
環境活動は社会からの期待値もますます高まっていると感じていて、当社でも力を入れて取り組んでいます。その中で私は今、環境配慮と効率性向上の両方を実現させるにはどうすればよいかを考えたり、環境目線で会社のことを考えたりする「革新的製品開発・工程プロジェクト」に取り組んでいるところです。このプロジェクト以外にも、社内では環境系のプロジェクトがいくつか進行していて、それぞれのプロジェクトで出た意見を集約したり、現場からの声を吸い上げたりするための仕組みも整えています。今後も、こうしたプロジェクトを社内でうまく管理しながら進め、新しい活動につなげていきたいと考えています。
また、次世代の子どもたちを育てていくことにも注力したいと考えています。当社には鴻巣市民と当社社員の育児と仕事の両立を支援するための保育・児童施設「ふくろうの森」があり、現在150人以上の子どもが在籍しています。園内ではビオトープをつくるなど環境教育も積極的に行っていて、これからの未来を担う子どもたちのためにできることを今後も続けていくつもりです。
これからも、出会った会社や関係ができた相手とのつながりを大切にしながら、社会、環境、地域のためにできることはないか、社員皆で考えていきたいです。そして持続可能な社会の実現に向けて、当社だけではなく、当社と関わってくださる方々や会社とともに成長していけたらと思っています。