Interview:SDGs 私のアプローチ #19
人、地球環境、社会、地域に配慮する、“エシカル”なアクションで、世界を変える!
~エシカル協会代表理事 末吉里花さん

末吉里花氏
一般社団法人エシカル協会代表理事 日本ユネスコ国内委員会広報大使
慶應義塾大学総合政策学部卒業。TBS系「世界ふしぎ発見!」のミステリーハンターとして世界各地を旅した経験を持つ。エシカルな暮らし方が幸せのものさしとなる持続可能な社会の実現のため、日本全国でエシカル消費の普及を目指している。2021年度から使用されている中学1年生の国語の教科書(教育出版)の一部を執筆。著書に「はじめてのエシカル」(山川出版社)、絵本「じゅんびはいいかい?〜名もなきこざるとエシカルな冒険〜」(山川出版社)、「エシカル革命」(山川出版社)ほか。東京都消費生活対策審議会委員、日本エシカル推進協議会理事、日本サステナブル・ラベル協会理事、ピープルツリー・アンバサダー、環境省中央環境審議会循環型社会部会委員(2021.4〜)、鎌倉市エシカル消費推進アドバイザー、経産省成長志向型の資源自律経済デザイン研究会委員(2022.10〜)ほか。https://ethicaljapan.org
さまざまなジャンルで活躍されている方々に、広くSDGsにどう取り組んだらいいか、ヒントを聞くインタビュー企画。
今回は、一般社団法人エシカル協会の代表理事・末吉里花さんにインタビューしました。2015年に設立されたエシカル協会は、日本におけるエシカルのパイオニア的存在として、国内での普及活動に取り組んできました。エシカルな考え方や行動は、なぜ大切なのか。末吉さんがエシカルに興味を持ったきっかけや、現在の活動、そして末吉さんが日頃から対話する機会が多いという若者たちとの向き合い方についても、お聞きしました。
“ミステリーハンター”として世界を旅したことが、環境問題に目を向けるきっかけに
━━現在の活動を始めたきっかけを教えてください。
大学卒業後にTBS系「世界ふしぎ発見!」というテレビ番組で“ミステリーハンター”を務めたことが大きなきっかけです。「世界ふしぎ発見!」は、「世界へ行こう、世界を知ろう」をテーマに、世界のあらゆる不思議をクイズやトークで解き明かしていく番組。私は番組の中で、現地を取材してリポートするミステリーハンターの秘境担当として、普通の旅行ではなかなか行けないところにたくさん連れていってもらいました。
番組でさまざまな秘境をたずねていくうちに、私なりに一つ、見えてきたことがありました。「この世界は一握りの権力者や利益のために、美しい自然や立場の弱い人たちが犠牲になっている」ということです。もちろん毎日ニュースを見ていれば、世界がこうした構造であることはすぐにわかると思います。しかし私は、実際に世界を見てまわり、立場の弱い人たちと対話したり、地球温暖化の影響を目の当たりにしたりしたことで、世界の構造のいびつさを頭で理解するだけではなく、身をもって実感しました。
中でも私の人生のターニングポイントになったのが、2004年に番組の取材でタンザニアにあるアフリカ最高峰・キリマンジャロに登頂したことです。キリマンジャロの頂上には氷河があるのですが、当時の科学者たちの間では、この氷河が2010年から2020年までの間に、地球温暖化の影響で完全に解けてしまうといわれていました。取材は、実際に氷河はどのくらい解けているのかを確かめることが目的でした。
頂上を目指して山を登り始めると、1900メートルくらいの地点に小学校があり、祈りながら木を植えている子どもたちに出会いました。話を聞いてみると、その子どもたちは「頂上にある氷河が大きくなりますように」と祈りながら、一本一本、木を植えていることがわかったんです。氷河の雪解け水の一部は子どもたちの生活用水にもなっていたので、氷河がなくなることは死活問題でした。そして私はその子どもたちから、「自分たちはこんなに高い山には登れないから、お姉ちゃんが代わりに登って、氷河を見てきて」と言われました。当時、高尾山くらいしか登ったことのなかった私が、約6000メートルもあるキリマンジャロに登り続けられたのは、ここで出会った子どもたちが背中を押してくれたからです。
その後、なんとか頂上までたどり着き、目の当たりにした光景はものすごくショッキングなものでした。氷河は約100年前と比べて、1~2割の大きさになってしまっていたんです。そのときに、この世界はつながっていて、地球は一つであることを実感しました。日本での私たちの暮らしが、目の前の氷河に悪い影響を与えているのかもしれないと思ったら、居ても立ってもいられなくなりました。これからの人生は、環境や社会の課題を解決するための活動をライフワークとしてやっていこう。私はキリマンジャロの頂上でそう決心しました。

TBS系「世界ふしぎ発見!」のミステリーハンターとして、キリマンジャロの頂上を訪れた。背景は、年々消滅していく氷河。©一般社団法人エシカル協会
━━最初はどのような活動から始めたのでしょうか?
日本に戻ってきてからは、海の近くに住んでいたこともあって、海辺でゴミ拾いをしたり、環境NGOのお手伝いをしたりしながら、自分にできることを模索していました。しかし最初は、私みたいなちっぽけな人間ひとりが何かをやっても意味があるんだろうかと、すごくもやもやした気持ちがありましたね。そんな時に出合ったのが、「フェアトレード」という概念でした。
フェアトレードは、直訳すると「公平・公正な貿易」という意味。途上国の原料や製品を正当な価格で取引することで、生産者たちの労働問題を改善したり、自立を支援したりするための貿易の仕組みです。生産者の人権を守るだけではなく、地球環境にやさしいものづくりにもつながるフェアトレードのことを知り、私がやりたいのはこういうことかもしれないと気が付きました。フェアトレードのように、日々の暮らしの中で誰もが参加できるようなことであれば、日本国内でも広めやすいと思ったんです。そこからフェアトレードのことを自分なりにいろいろ勉強していくうちに「エシカル消費」という考え方にも出合いました。エシカル消費は、人、地球環境、社会、地域などに配慮した消費のあり方で、フェアトレードもエシカル消費の中に含まれます。幅広い消費のあり方として選択肢も多いことから、日本国内でも広く普及していけると考えました。こうして、エシカル消費を専門にやっていくことを決心し、2015年にエシカル協会を立ち上げました。

バングラデシュのフェアトレード団体の工房に併設されている小学校を訪問したときの様子。この小学校はフェアトレードの利益の一部を地域で必要としているものに充てる仕組み「フェアトレードプレミアム」でできた。©一般社団法人エシカル協会
社会の仕組みを変えることにつながるエシカルなアクション「エンゲージド・エシカル」をさらに広めたい
━━現在、エシカル協会が取り組んでいる活動について教えてください。
エシカル協会の活動は大きく3つあります。1つ目は、「人、地球環境、社会、地域に配慮した考え方や行動」というエシカルの定義や、エシカル消費の重要性や魅力を知る機会を提供すること。エシカル協会を設立した2015年と比べると、エシカルという言葉の認知度は確かに高まってきています。しかしまだまだ知らない人も多く、また言葉の意味を知っていてもその重要性や必要性まで理解している人はそう多くありません。そのため私たちは「エシカル・コンシェルジュ講座」を開催し、さまざまな分野で課題解決に取り組む人たちから学べる機会をつくったり、日本全国の自治体や企業、教育現場など多様な立場の人たちに向けて講演を行っています。
2つ目は、法人会員制度を設け、エシカルに関心のある人たちが交流する機会をつくることです。法人会員制度では、エシカル協会の活動を応援してくださる企業の皆さんに会員になってもらうことで、会員の企業同士が横のつながりを持つことができたり、勉強会を開いてエシカルの最新の情報に触れてもらったりする場を提供しています。
3つ目は、生活者の声を、日本の政策や法律などをつくる人たちに届けること。ひとことで言えば、政策提言です。一人一人が暮らしの中で行動を変えていくことはとても重要ですが、その一方で、生活者サイドが頑張るだけでは、どうしても限界があります。社会の仕組みやシステム、政策が変わらなければ、企業も生活者も変わることができません。私は最近、いくつかの政府政策検討委員として政策に関わる機会をいただいているので、なるべく多くの生活者の声を反映できるよう対話を重ね、委員会の中で皆さんの声を代表して発言をするようにしています。私たちはこのように、社会の仕組みそのものを変えることにつながるエシカルなアクションを「エンゲージド・エシカル」と呼んでいて、今後少しずつ広めていきたいと思っています。

エシカル・コンシェルジュ講座の様子(現在はオンライン開催)。現在エシカル・コンシェルジュ講座12期申し込みを受付中。末吉里花さんによる無料特別講座の申し込みは12/1まで(詳しくは、こちら)。©一般社団法人エシカル協会
━━個人ができるエンゲージド・エシカルの具体的な例を教えてください。
エシカル・コンシェルジュ講座の受講生たちが必ずといっていいほどやってくださるエンゲージド・エシカルが、自分がよく行くスーパーやお店に声を届けること。中でも最も成功率が高いのが、「平飼いの卵をスーパーに置いてもらうこと」です。現在、日本では卵用の鶏の90%以上が狭いケージの中で飼育されています。鶏たちは身動きがとれない狭い空間で卵を産んでいて、病気になったり体がボロボロになったりすることもあり、動物福祉の観点から大きな課題になっています。今後はケージフリーの「平飼い」に切り替えていくことが求められていますが、まだまだ平飼いの卵を置いていないスーパーも多いのが現状です。
そこで、エシカル・コンシェルジュ講座の受講生たちが、スーパーに置かれている「お客さまの声」のカードなどで、平飼いの卵を置いてほしい理由も含めて伝えるというアクションを起こしてくれています。すると、かなりの高確率で店頭に置いてもらえるようで、実際ここ1年だけでも、平飼い卵を置くスーパーはかなり増えてきているんですよね。また、生活者が声を届けて実際に商品を買うことで、「本当は動物福祉に配慮した卵をつくりたいけど、値段が高くなるとお客さんが買ってくれない」と悩んでいた生産者たちが「平飼い」へと方向転換する後押しにもなります。私たち生活者が、「こういうものをつくってほしい」「こういうものを買いたい」というポジティブな声を企業に届けることで、最終的に生産者にも影響を与えることができるのです。これは社会の仕組みを変えることにつながるので、エンゲージド・エシカルのよい事例だと思っています。
大人たちが頑張る背中を見せることが大切
━━エシカル協会では学生向けの講演なども行っていて、末吉さんも若い世代と対話される機会があると思います。今の若者たちに対してどのような印象を持たれていますか?
私たちとは明らかに価値観が違う、というのが全体の印象です。例えば、就活での企業選びでは、ネームバリューや収入の高さではなく、「SDGsの目標を達成するために企業が本業として何か取り組んでいるか」を重視する人が2割いるというデータがあります。たった2割かもしれませんが、そもそも、SDGsに関することが企業選びの選択肢の一つになっていること自体が大きな変化ですよね。
また若い人たちと話すと、エシカル=「かっこいい」というイメージを持っている人が多いと感じます。逆に、誰かを傷つけたり、環境を破壊したりしながら、犠牲の上に成り立ったものやサービスは、「かっこ悪い」。だから、大切なお金を使って何かを買うときはその背景が気になるし、そもそもできるだけものを所有したくない、という声もよく聞きます。このように、SDGsやエシカル消費に対して関心の高い若者は、大人よりもずっと感覚が鋭くて最先端のことをやっていたりするのですが、その一方で、まったく興味のない学生も当然います。ヨーロッパやアメリカと比べると、日本では関心がある人とない人が、はっきり二極化しているイメージがありますね。
━━なぜ二極化しているのでしょうか?
私たちもきちんと分析できているわけではないのですが……。環境や社会の問題に対して敏感な若者たちは、英語ができて海外の情報にアクセスしやすかったり、周りにも同じような考えの仲間がいたり、学校の先生が積極的だったり、家庭の中でも何か取り組んでいたりと、さまざまなきっかけからアクションを起こしています。こうしたきっかけがあまりない人は、自分の生活に関係がないことだと感じて、なかなか関心を持ちにくいのかもしれません。
アクションを起こした若者にそのきっかけを聞くと、「アクションを起こしているすてきな大人に出会ったから」という子も意外と多くいます。そう考えると私たち大人は、「大人たちが頑張っているから自分も頑張らないと!」と若者たちに思ってもらえるような姿を見せなきゃいけないですよね。また、大人たちはよく「若者たちに期待している」と言いますが、私はこれってすごくおこがましい言い方だと思っているんです。今、地球で起こっているさまざまな問題をつくったのは大人たちですよね。若者たちは、本当は何も考えずにもっといろんなことを楽しめるはずだったのに、それができない世界を私たちがつくってしまった。だから「期待している」ではなくて、「私たちが頑張るからぜひ一緒に何かやりましょう!」というスタンスでいなければダメだと思っています。

©環境省グッドライフアワード
1人の100歩より、100人の1歩が世界を変える!
━━最後に、これからの若い世代にメッセージをお願いします。
私は活動を始めてまだ17年くらいですが、その中ですごく悩んでもうやめたいと思ったことが何度もありました。その悩んでいた時期に、アメリカのアウトドアブランド「パタゴニア」の創業者であるイヴォン・シュイナードさんにお目にかかる機会があったんです。悩んでいることを話すと、彼はこう言ってくれました。「もしあなたが活動をやめてしまったら、あなたは問題の一部になる。でも、もしあなたが頑張って活動を続けていけば、あなたは問題の解決の一部になれる。人は何を思ったり言ったりするかではなく、何をするかでその価値が決まる」と。つまり「行動あるのみ」ということですよね。行動に移さなければ何も変わらないし、変えられない。私はこの言葉に支えられながら、今も活動を続けることができています。
今の世の中はエシカルという観点から見れば、不完全で、不平等で、不公正です。その中で何もせずに生きるということは、ある意味、問題に加担していることにもなってしまう。本当に悲しい時代だと思っています。でも逆に言えば、どんな人でも一歩踏み出すことで問題を解決する一部になることができます。私は、1人の100歩より100人の1歩の方が世界を変える力を持っていると信じているので、ぜひ皆さんと一緒によりよい未来をつくっていきたいです。
ウェブ電通報では、企業がエシカルを取り入れていくためのヒントなど、TeamSDGsのウェブサイトとは違った切り口でインタビューを掲載しています(記事はこちら)。ぜひ併せてご一読ください。