2022.11.07
インタビュー

自然を体験して理解することが、 自然環境や生物多様性を守る第一歩になる ~環境省・岡野隆宏さん 日光国立公園アクティブレンジャー・善養寺聡彦さん

Interview:SDGs 私のアプローチ18

自然を体験して理解することが、自然環境や生物多様性を守る第一歩になる
~環境省・岡野隆宏さん 日光国立公園アクティブレンジャー・善養寺聡彦さん

岡野隆宏氏

環境省 自然環境局 国立公園課 国立公園利用推進室 室長

1997年に環境庁(現・環境省)に入庁。国立公園のレンジャーとして阿蘇くじゅう国立公園、西表(いりおもて)国立公園(現・西表石垣国立公園)で現地勤務を経験。2010年から2014年まで鹿児島大学特任准教授として、「自然環境の保全と活用による地域づくり」をテーマに調査・研究。2014年12月より「つなげよう、支えよう森里川海」プロジェクト、2018年8月から2020年6月まで「地域循環共生圏」づくりを担当。温泉地保護利用推進室長を経て、2021年7月より現職。

 

善養寺聡彦氏

日光国立公園 那須管理官事務所 アクティブレンジャー

千葉県の高等学校で生物教師として、高校生の野外実習内容の開発実施やオリジナル実験の開発に携わる。また屋久島やアメリカのイエローストーンで実習内容の開発・実施も経験。定年退職後の2020年4月、日光国立公園那須管理官事務所のアクティブレンジャーに着任した。専門分野は、動物(昆虫)行動学。

さまざまなジャンルで活躍されている方々に、広くSDGsにどう取り組んだらいいか、ヒントを聞くインタビュー企画。

 

今回は、環境省の岡野隆宏さんと、日光国立公園でアクティブレンジャーとして活動する善養寺聡彦さんにインタビューしました。現在、日本の国立公園では、自然や生物多様性の保全、地域循環型経済の実現を目指し、さまざまな取り組みが行われています。SDGsの達成、サステナブルな社会の実現のために、日本の国立公園はどのような役割を担えるのか。岡野さんからは日本の国立公園の目的や今後の展望について、善養寺さんからは自然環境保全のために行っている具体的な取り組みについて伺いました。

 

国立公園は、原生的な自然や地域の文化が体験できる美しい場所

 

━━そもそも「国立公園」とは何か、目的や役割も含めて教えてください。

 

岡野:国立公園は、「自然公園法」という法律に基づいて国が指定した、日本の中でも優れた自然の風景がある美しい場所です。日本には現在、34の国立公園があります。

国立公園の使命は、原生的な自然の風景や、地域の営みでつくられてきた風景を保護して、未来に残すこと。そのために、開発など自然の改変を国の法律によって規制したり、時には人が介入したりしながら、自然環境や生物多様性の保全を行っています。それと同時に、多くの人に訪れてもらい、自然の大切さや保護する意義を知ってもらったり、心揺さぶられる自然体験をしてもらったりすることが国立公園の目的です。

十和田八幡平国立公園 

十和田湖や奥入瀬渓流からなる十和田・八甲田地域と、日本有数の火山地域である八幡平地域で構成される。

 

また日本の国立公園は、森や川、海などの原生的な自然が残っている場所に加え、集落や農耕地などが含まれており、人の暮らしがあることが大きな特徴です。そのため、国が一元管理するアメリカの国立公園とは違って、日本の国立公園は、国だけではなく、さまざまな人たちとパートナーシップを組んで管理を行っています。各国立公園には環境省の事務所があり、レンジャーがいますが、地域の暮らしに関わる自治体や観光に関わる民間事業者、地域住民と一緒に、国立公園の保全と活用に取り組んでいます。さまざまな人たちが協力しながら、日本の美しい自然の風景を守るために取り組む。これはSDGsの中で掲げられている「パートナーシップで目標を達成しよう」という考え方にもつながるものだと思います。

 

自然環境を守るために現場で活動する、アクティブレンジャーの仕事

 

━━善養寺さんは現在、「アクティブレンジャー」として活動されています。アクティブレンジャーの役割や、この仕事を始めた経緯について教えてください。

 

善養寺:アクティブレンジャーは、環境省の自然保護官補佐として、国立公園のパトロールや調査など、主に野外の現場で業務を行う仕事です。私は日光国立公園の那須管理官事務所でアクティブレンジャーとして活動していて、今年で3年目になります。

私はもともと千葉県の高校で生物の教師をしていて、屋久島やアメリカのイエローストーンでの実習内容を開発・実施するなど、さまざまな野外実習に携わってきました。自然の中で体験したり研究したりすることを大事に考えてきたこともあり、豊かな自然が残っている国立公園に関わる仕事には以前から興味を持っていました。また、教師の仕事は学校にいることがほとんどで、夏休みなどの限られた期間でしか研究活動ができないため、「年間を通して一つのフィールドに身を置きたい」とも考えていました。国立公園で自然環境の保護や利用促進のために活動するアクティブレンジャーは、まさに自分のやりたいことができる仕事だと感じ、定年退職後に思い切って挑戦してみることにしました。

 

━━普段は国立公園でどのような活動をしているのでしょうか?

 

善養寺:アクティブレンジャーの細かな活動内容は場所によって異なりますが、私がいる日光国立公園の那須管理官事務所では自然や生物を守るために、大きく3つの業務を行っています。

一つは、メインの業務である歩道や施設の巡視です。実際に公園を歩いてまわり、スコップで道をならしたり、洗堀(雨水の流れにより、歩道の表面などが削り取られること)対策として土のうや石を積んだりして、整備を行っています。その場ですぐに対応できないような大規模な補修が必要なときは、地元の業者などにお願いして工事をしてもらうこともあります。

 

日光国立公園 

福島、栃木、群馬の三県にまたがる公園区域の大半は、那須火山帯に属する山岳地。世界遺産に登録されている寺社仏閣など、歴史的建造物が多いところも魅力。

 

二つ目は、日光国立公園にある「那須平成の森」でのモニタリング調査です。那須平成の森はもともと御用邸地で、一般の人は立ち入ることができませんでした。しかし土地の約半分が環境省に移管され、今では自然環境のモニタリング調査を行いながら、誰もが散策やガイドツアーを楽しめる場所となっています。私たちはここに仕掛けた15台のセンサーカメラからデータを回収し、大型・中型動物のモニタリング調査を行っています。このモニタリング調査では、特定の検証を目的としているわけではありません。しかし長期間の調査によって蓄積されたデータは、自然環境の変化があったときに原因を探ったりさらに詳しく調査をしたりするときに、貴重な資料になります。例えば、那須地域では近年、シカやイノシシが増えているのですが、データを見ると、ここ数年で急激に増えていることがわかっています。那須平成の森のように10年以上もデータを取り続けているところは非常に珍しく、今後も継続的に調査を行うことで、自然環境の保全に役立てられると考えています。

 

那須平成の森では、年間を通してセンサーカメラの設置およびデータの回収を行っており、継続的な自然環境モニタリングを実施している。

 

三つ目は、特定外来生物の駆除です。本来その土地に生息する生物を守るために行う駆除活動は、生物多様性の保全につながります。日光国立公園では、在来の植物が駆逐されることを防ぐために、黄色い花を付けるキク科の多年草「オオハンゴウソウ」を駆除しています。特にオオハンゴウソウのシーズンである夏は駆除する機会が多く、地元のボランティアと協力しながら行っています。

 

地域住民との関わりも大切にしながら、保全活動に取り組む

 

━━国立公園で地域の方々と一緒に取り組んでいることを教えてください。

善養寺:私が地域の方々と主に取り組んでいるのは、公園の巡視と駆除活動です。ちょうど先日も地域の山岳会の方たちと一緒に茶臼岳の巡視を行いました。山岳会の方たちは皆さん熟練したスキルを持っていて、土のうや石の積み方のコツなど、さまざまなことを教えてもらっています。国立公園の場所によって体制は異なりますが、日光国立公園では山岳会や救助隊、個人の方々が、それぞれ気が付く範囲で自主的に巡視をしてくれていて、地域のサポートに大いに助けられていると実感しています。

そのほか、特定外来生物の駆除も地元のボランティアと一緒に行っています。最近では学校の行事でもオオハンゴウソウの駆除活動が行われることがあり、活動の事前レクチャーなどを依頼されることもあります。さらに学校の総合学習の授業で、国立公園に関する環境問題をテーマに講演会を行うなど、子どもたちと関わる機会も増えてきました。講演をきっかけに生徒たちが駆除活動や、那須平成の森の自然体験ツアーなどに参加してくれることもあって、今後もさらに活動を広げられるのではと感じています。教師のときの経験など、自分の強みを生かしながら、これからもできることを実践していきたいです。

 

新緑の那須平成の森を巡視中。

 

━━善養寺さんが考える、SDGsやサステナブルにおける国立公園の役割について教えてください。

 

私はこれまで教師として自然の大切さを生徒たちに伝えてきましたが、やはり実際に体験してもらう以上に自然の大切さを効果的に伝える方法はありません。私自身、自然の中に身を置いて活動している今、自然のことをより理解し、大切に考えるようになったと感じています。言葉で理解した自然と、自分が触れて感じた自然は異なります。環境問題について議論をしたり、自然を守るために活動したりするときには、「自分が触れて感じた自然」の体験が、アクションにつながる大きな力になると思います。

 

日光国立公園

紅葉スポットとしても有名な那須高原の姥ヶ平。

 

私がいる日光国立公園は、美しい自然を肌で感じられる場所です。那須地域は、非常に複雑な地形をしていて、少し歩くだけでさまざまな景色を見ることができます。「ここはなぜこんな地形をしているんだろう?」「場所によって咲いている花が違うのはなぜだろう?」など、さまざまなことを考えながら自然を散策することで、より楽しい自然体験ができると思います。ぜひ多くの人に訪れてもらい、自然に触れ、理解するためのきっかけの場所にしてほしいです。

 

自然環境を守ることが、地域社会を良くしたり、観光を盛り上げたりすることにつながる

━━国立公園の今後の展望について、教えてください。

 

岡野:国立公園では現在、善養寺さんのようなアクティブレンジャーが地域の方々と協力し合いながら、自然環境や生物多様性の保全のために現場で頑張ってくれています。今後はこのように「保護」に力を入れながら、「利用」を促進させることももっと考えていきたいと思っています。そのために取り組み始めているのが、訪れた人に楽しんでもらうための仕組みやルールづくりです。

例えば、「アドベンチャーツーリズム」という旅行形態が、海外で注目されています。これは基本的に、ガイドが同伴しながら少人数で自然や文化を体験するものです。現在、国立公園でも自然体験プログラムの造成に取り組んでいますが、今後さらに力を入れていきたいと考えています。また、人数を限定して、自然を守りながらかけがえのない体験を提供するルールづくりも必要です。

 

日光国立公園

栃木県と福島県の県境に位置する三本槍岳の北側、裏那須の山中にある鏡ヶ沼。

 

自然の風景はそれだけで圧倒的な迫力があって心を揺さぶられますが、その風景が長い歴史の中でどのようにつくられてきたのかというストーリーを知ることによって、また別の感動が生まれるはずです。そして、ストーリーを知ることによって、「人間の暮らしは自然が基盤になっている」と気付くこともできると思います。このように、国立公園に訪れることへの意味や価値をさらに高められるよう、できることを考えていきたいです。

そして、観光事業を盛り上げていくためには、自然環境や地域社会を良くするための取り組みも欠かせません。地域の産品を購入するとか、環境保全の協力金を支払うなど、全ての基盤である自然環境を守り、地域社会を豊かにしていくことが、訪れる人により大きな感動を与えることにもつながります。私たちは今後も、国立公園の「保護」と「利用」をうまく循環させ、訪れる人々に美しい自然の風景や体験を楽しんでもらえる場所、持続可能な未来を考えてもらえる場所にしていきたいと思っています。

 

ウェブ電通報では、国立公園と地域社会・経済との関わりなどについて、こちらの記事とは違った切り口で岡野隆宏さんのインタビューを掲載しています。ぜひ併せてご一読ください。

https://dentsu-ho.com/articles/8352

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