2023.03.02
レポート

海洋ごみ削減に挑戦 vol.1 「ドローンを使った海岸ごみ見える化マップ」(金沢大学・北陸大学)

海洋ごみによる汚染(陸上活動による汚染を含む)を大幅に削減するSDGsの目標14の達成期限が2025年に迫る中、海洋ごみ問題の取り組みをする人・団体を特集します。第1回は「海ごみ見える化計画」*のメンバー、金沢大学ぐるぐるラボの河内先生と北陸大学ものづくりLabの藤本先生、そして金沢大学大学院生の不破さん・大学生の大石さんにお話をお伺いしました。

 

*「海ごみ見える化計画」は、JST(国立研究開発法人科学技術振興機構)共創の場形成支援プログラム COI-NEXT「再生可能多糖類植物由来プラスチックによる資源循環社会共創拠点」の研究活動の一環です。

 

河内幾帆さん(金沢大学 融合研究域 准教授)

藤本雄紀さん(北陸大学 経済経営学部 講師)

不破知哉さん(金沢大学 大学院 自然科学研究科電子情報通信学専攻)

大石廉汰さん(金沢大学 理工学域 フロンティア工学類)

 

1.みんな「何かが間違っていて、何かやりたい」と思っている

 

金沢大学ぐるぐるラボ(大石さん・物上さん・河内先生・不破さん・ユンスさん)

*今回インタビュー参加していないメンバーも含む

 

━━ドローンによる海岸ごみの見える化マップの研究目的を教えてください。

 

河内:私はずっと気候変動問題を教えてきましたが、気候変動問題に取り組むことは本当に難しいです。なぜかというと、見えないから。いったい自分のどういう行動が気候変動につながって、そして気候変動が自分にどう返ってくるのかが見えない。データで見せられても現実味がない中で、みんなにわかってもらわないといけません。

 

その点、海ごみの問題はわかりやすい。海岸に人工物のごみがあるのを見たら、これは私たちが引き起こしている問題だとわかる。さらにごみを一つでも取れば、このごみはもう海には流出しない。とてもわかりやすいから、人々が環境問題と自分をつなげるチャンスだと思ったんです。

 

そして、「海ごみマップを学生と一緒に作っています」と言うと、周りの人々が希望を持つんです。それぐらい人々が希望に飢えている。何かしたいと思う人がたくさんいて、ごみ拾いやりますかって声をかけると、あっという間に数十人ぐらいは集まるんです。みんな「何かが間違っていて、何かやりたい」と思っていて。

 

手で拾うより、重機を使って一気に海岸のごみを取り除けばいいという意見もありますが、せっかく人々が現場に行って問題を見て、自分で解決する方法を考える機会があって、そこから大きな社会の変化が始まるのに、重機でなかったことにしてしまうのはもったいないです。

 

ごみ拾いって面倒くさいし、疲れる。でも、何がこんなに間違っちゃったんだろうって、本質的なところを考えるようになります。どうしたらごみが出なくなるだろうって会話が生まれて、そこに答えがない。でも考え続けるようになる。どうしたらいいんだろう、それが重要です。

 

金沢大学・河内先生

 

河内:企業や政府が主導して環境への取り組みが行われてきて、市民が置いてきぼりにされている。私は「社会の仕組みのまずさ」を「市民個人の努力の話に変えてごまかす」ことがすごく嫌いで、何か、市民から自治体や企業に働きかけるようにできないかと考えてきました。

 

自分たちはこういった暮らし方がしたい。こういった社会にしたい。それを受けた政治のあり方や製品の開発など、市民を中心とした新しい社会のあり方を問う力を高めたい。だから、そういう人たちがつながるプラットフォームを作りたい。実際に、海岸や河川は国や県の管轄もあるので、自治体は市民からの要請がないと動けないところもあります。

 

まずは、どこにどのくらいのごみがあるのか、最初はドローンで撮影し、ゆくゆくは、その地域の市民からの情報で、ごみがここにあるということを個人でも気軽に投稿できて、気軽にごみ拾いをしたくなるサイトやアプリを作れないかと考えています。

 

 

2.専門も興味もバラバラのチーム編成

 

━━北陸大学と金沢大学、なぜ大学も専門も異なるメンバーでドローンを使って海岸ごみを可視化する研究を始めることになったのでしょうか。

 

金沢大学ぐるぐるラボにて。北陸大学・藤本先生(左)、金沢大学・河内先生(右)

 

河内:2020年の夏に学生2人と私の3人で始めました。それから、私が藤本先生を誘ったり、学生が学生を誘ったりして入れ替わりがありながら、5〜6人くらいで続けています。

 

藤本:金沢大学に行った時、自己紹介で「最近、地図もやっています」と言ったら、たまたま河内先生もいらして、一緒にやりましょうということになって。

 

河内:藤本先生が入るまでは、ドローンを操縦かんにどうつないでいいかもわからない状態でした。ただ、環境問題にものすごく関心があるのって、多分私だけです。このメンバー。

 

不破:僕は電子情報通信学専攻で、データ分析を担当しています。

 

大石:僕は航空宇宙システム研究室の所属で、ドローンに関心がありました。

 

河内:パイロット志望で視力の良い大石さんが参加してから、ドローンを飛ばせる範囲が格段に広がりました。飛行許可申請のいらない範囲で飛ばすドローン(レベル1)では目視できる範囲で操縦するという決まりがあるので。

 

━━学生のお二人は、研究室やゼミで先生を手伝っているのではなく、自主参加なのですね。

 

河内:私は毎年1000人の学生に向けて環境の授業をしていて、刺激を受けて自分が動きたいという学生がいると「金沢大学ぐるぐるラボ」に誘っています。定期的な活動はなく、それぞれが、ぐるぐる迷いながら答えを探していて、それぞれの領域が違っても、ぐるぐる迷う今があっていいんだと認め合い、助け合う場です。

 

藤本:僕も「北陸大学ものづくりLab」で、学生が作りたいもののサポートをしています。

 

ただ、忖度(そんたく)せず言うと、SDGsバッジをつけている人に「きれいごとを言っているけど自分で動いているのか」と思うし、就活のためにボランティアをする学生もどうなのかなと思う人間です。こういう僕みたいな、絶対SDGsマンにならないという意志を持っている人間が、海ごみの研究チームに入っているのも面白いかなと思っています。

 

河内:私みたいな人ばっかり集まっていたら同じ発想にしかならない。いろんな切り口で楽しめるメンバーがそろっていることが、チームを良くしています。みんなが環境問題に熱い思いがあるとは言い難いけれど、それぞれの楽しいやり方で関わることで間口が広くなっています。

 

3.人を行動制限以外で動かせるか

 

━━藤本先生は、経済経営学部なのに、普段ドローンを扱うことがあるのでしょうか。

 

北陸大学・藤本先生とドローン

 

藤本:大学時代は土木分野の研究室で、ドローンを飛ばして河川の堤防に関する分析や、それをスポーツ分野に応用した選手の運動量の解析などを手伝うこともありました。僕のメインの研究はSNSが対象で、博士論文はTwitterを使った高速道路の事故情報分析でした。この研究は実際に高速道路会社と連携して進めてきました。北陸大に来てからは、空撮画像を三次元化する技術を使い、ドローンを飛ばして大学キャンパスの3次元化を試したりしていました。今は海ごみMAP以外の研究では、のと鉄道と「VRを活用した観光列車における個人客の利用促進に関する研究」や、教育系では「プログラミングにおけるジェンダーバイアスの研究」もしています。

 

━━随分研究テーマの幅が広いですね。共通点はあるのでしょうか。

 

藤本:実学に近い、課題解決につながるものですね。理論系のアルゴリズム開発などは僕には向いていないです。あとは、自分が面白いと思うかどうか。

 

海ごみマップを面白いと思ったのは、河内先生から「ウェルビーイング」という言葉が出てきたからです。人を動かすのに、レジ袋有料とかの行動制限ではなく、人がどうやったら主体的に動きたくなるのか、幸せに生きられるかとつなげた発想は、面白いと思ったので。

 

━━海岸ごみの見える化マップについて、今の状況を教えてください。

 

藤本:現在は石川県の海岸沿い全部を目標にしてドローン撮影をしています。並行して、地図上にどれだけごみがあるかを可視化するために、プラスチックごみかどうかを判別するAI の学習データを作っています。

 

ドローン撮影の合間に、目検でもごみの種類を把握

 

藤本:どんなパラメーターがいいのか大体固まってきて、3000枚くらい海岸沿いの写真をAIで処理をかけたところです。今のごみ判別精度は6〜7割くらいで、地図上で見えるようにしています。

 

地図上にごみヒートマップを表示

 

河内:人が行きにくいところにドローンを飛ばしてごみが大量にあることを知らせたいのですが、風が強いところにはドローンは飛ばせないし、バッテリーがもたないですね。

 

大石:今僕たちが使っているドローンだと、12メートル幅の海岸を1000メートル分撮影するくらいでバッテリーが1本切れます。

 

ドローンがバッテリー交換なしで飛べる範囲

 

藤本:ドローンは地上30メートル以上の距離から撮影という決まりがあるので、ごみの写真の解像度に限界があります。スマホの位置情報がついた写真も解析に加えたいのですが、縮尺が違うので同じ地図に情報をのせるには、1つのごみに対して、1つの写真を撮ってもらえるのが理想。ただそれだと、1枚ずつ写真を撮るよりそのごみを拾った方が早いとか、課題はいろいろあります。

 

━━今ゴールから見て現在の研究は、どのくらいの進捗(しんちょく)なのでしょうか。

 

藤本:完成を100とするならこの1年で進捗0.1ぐらいじゃないですか。情報処理学会での研究報告は書けましたが、最終的には市民自身が作り上げるプラットフォームにならないといけないので、そこの仕掛けが全然足りてないという焦りはあります。

 

海ごみの量が正確にわかることよりも、見た人がごみ拾いに行こうと思えるようにしたい。だからごみを判別するAIの精度は追求せず、ある程度わかればいい。人がどう意識改善するかを軸にしないと、データを作って終わりになってしまうので。

 

4.絶望から主体的に前に向かう力を育む

 

━━学生のお二人は、このプロジェクトに関わってつらかったことや、そこから得られるものはありましたか。

 

不破:AI が読み込む学習データを作るのは単純作業でしんどいですが、地図データの勉強ができました。僕は岐阜県出身で、海が近くになかったのですが、海ごみは想像していたよりもっとひどい状況でした。そういう自分の知らなかった裏側が見えたこともよかったです。

 

大石:ほかの研究もあるので、スケジュールがきついですね。ドローン撮影で、もう近場は撮ってしまったので、まる一日使って撮影のために遠くに行かなければいけないですし。ただ、人と関わることが多くなったのはよかったです。工学部だとこもりっぱなしなのですが、ごみ拾いは黙々と拾うのではなく、周りの人となんらか話しますし。

 

不破:僕も、自分自身がなんかアップデートされた気がします。こういう考え方もあるんだとか、海ごみ拾いイベントでいろんな人に会いますから。

 

河内:行く先々で、このドローンプロジェクトの話をするとみんな「楽しそう!金沢大学生はすごい!」っていわれます。私は金沢大学生を心の底から誇りに思っています、本当にすごい。始まった時は何もなかったから。プログラミングも自力で始めてスキルを形成し、ネットワークを作っていく。海ごみマップを作るプロセス自体に、人々を主体的に巻き込んでいける可能性を感じます。

 

海ごみがなくならない現実という絶望的な場所から、ビジョンがあることで人々がつながっていき、美しいものが生まれていく、そういうことを目の当たりにしています。

 

ドローン離陸時の様子

 

━━頭でわかるだけでは、人は前向きになりにくいのかもしれません。また学生がプログラミングやドローンなど環境問題とは異なる切り口から興味を持ち、海岸でのごみ拾いという実体験を通じて、地域の人や行政と主体的に関わっていくプロセスにも希望が持てました。本日はありがとうございました。

 

3月26日(日)能登での海岸ごみ拾いのイベントはこちら。

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