今年の2月、東京・丸の内で行われた、第7回サステナブル・ブランド国際会議2023。
運営元である株式会社博展の発表によると、現地参加人数は4,000人を超えて過去最高だったようです。それにもかかわらず、例年に比べると、さほど混みあっている印象はありませんでした。それは、会場が「東京国際フォーラム」(以下国際フォーラム)「JPタワー・KITTE」(以下JPタワー)「丸の内ビルディング」(以下丸ビル)の3カ所に分かれていたからではないかと思いますが、この、「東京・丸の内エリアを有効活用しての開催」も今年の会議の特徴のひとつでした。会議の模様をリポートします。
(前編はこちら)
Day2(2月15日)
【個人の意識と志】
Plenaryのあと、テーマに分かれてのパネルディスカッションBreakout Sessionsを聴講しました。
その中のひとつ「SOMPOのパーパス経営:MYパーパス・メイキング体感ワークショップ」は昨年もあったプログラムなのですが、今年は参加者が倍くらいになったとのことです。SOMPO社の「パーパス経営の全体像」「パーパス浸透の取り組み」について知ることができる講義パートは間違いなく貴重でしたが、会場がもっとも盛り上がったのは「体感ワーク」の工程でした。
MYパーパスを明らかにするには「内発的動機(WANT)」がひとつのヒントになり、これは経験の中に存在しているため、「もっとも心が動く瞬間」とそれをかたち作った「原体験」を相手に話して言葉にするように説明があったのですが、その相手というのはたまたま隣に座っている人のことでした。初対面(おそらくほとんどが)の人にいきなり社会人になる前の話をするのはなかなかハードルが高そうですが、登壇者がマイクを片手に「誰も聞いてない……」と笑いだしてしまうくらいにそれぞれで会話は弾み、時間が足りないように見えるチームも少なくありませんでした。また、最後の質疑応答では「異動・配置・育成などの人事制度とどのように連動しているのか?」など具体的かつ実用的とも思える質問が出ていて、そのことからも、参加者が既にいろいろ考えて経験してきているのではないかと推察されました。

前日のオープンセミナーのひとつ「パーパスが生み出す共創─企業とNPOが考える 持続的アクションの秘訣─」でも会場から人があふれそうだったこと、他のいくつかのセッションでも言及されていたことを思い出し、パーパスが「サステナブル」や「ウェルビーイング」という文脈の中で改めて、“個人”のレベルから重要視されてきていることを強く感じたのですが、パネリストのひとりはこれを、「イノベーションを起こしていく時代の経営における重要な人的資本」「仕事が、誰のためになっているのか、自分たちの幸せにつながっているのか、そしてそれは持続可能なのか?」と表現されていました。
取り組む姿勢と次世代
次のセッションまで、そのままActivation Hub(交流エリア)で過ごしていると、学生に声をかけられました。サステナブル・ブランドジャパンZ世代コミュニティプラットフォーム「nest」のメンバーであるという3人は、社会人を対象に、勤務先のサステナビリティの取り組みについてアンケートを行っているということでした。ビジネスパーソン向けのカンファレンスで2日目も終盤、わずかな緊張や疲れも見られましたが、楽しそうだとも感じました。

実は前日にもActivation Hubで大学生に声をかけてもらっていて、そのときの印象も同じでした。高校生の時に立ち上げたという特定非営利活動法人「IHRP」の説明を聞いて、課題に対する視点や考え方、解決策を創り出す行動力、それを支える意欲と好奇心に舌を巻き、大いに感心したのですが、だからこそつい深刻な調子で応答をしていたら、その大学生は不意を突かれた様子で、「必要に迫られてというよりは、楽しくてやっているのです」とつぶやいて笑いました。
この無意識にこぼれたような言葉と笑顔にハッとさせられたのです。次世代の、未来を生きる当事者たちが、前向きに行動できていることほど心強く、また救われることはありません。難しく、地球と人類の命運がかかった課題であることは事実なのですが、恐れて必死に対処することがやり方のすべてではないと気づかされました。
「レポーティング」と「本質」と「おのおのの志」
Day1、Day2を通して可能な限りのプログラムを聴講し、感じたのは、「確実に進んでいる」ということでした。テーマどおりじゃないか、と言われればそうなのですが、この数年間の会議の様子と内容の変化からだけでも、かなりそれを感じることができました。

冒頭で取り上げたオープニングや満席で立ち見になったDay1のBreakout Sessions「自由演技としての統合報告書の可能性」など、いくつかのセッションで重要性と手段が紹介・議論された「レポーティング」は、数年前と比べて論理よりも実践に近いものになっている印象を受けましたし、同じように、前述のワークショップやDay1 Plenaryの「今サステナビリティ経営に必要なもの」をはじめ複数のセッションで耳にした「個人のパーパス」については、2022年の会議のときよりも言及するパネリストが多く、先駆者の背中を見てか、取り入れ始めた企業が増えてきているようでした。オープンセミナーやBreakout Sessions「JSBIのトップランキング企業のサステナブル・コミュニケーション戦略」では、空港、旅行、キャラクターコンテンツ、住宅、コンビニエンスストアなど、ビジネスパーソンでなくても関心が持てるような生活者に近いところでのサステナブルな取り組みが紹介され、高校生を含む若年層も多く聴講していました。

少々感覚的ですが、セッションで論じられている内容、すなわち、課題設定と考え方、そのアウトプットが現実的になってきたことを中心に、問題に対する「解像度が上がってきている」感じがするのです。これは、果敢に挑戦する人、企業、組織、団体が増え、見えないところで何度もトライアンドエラーがなされてきている大きな成果でしょう。ただし、それは同時に、理解が進み課題の大きさ・手強さが浮き彫りになってきているということであり、「本当に対応できるのか?」という恐ろしさも増してきてしまっているのではないかと思いました。
Day2のBreakout Sessions「サステナブルな社会の構築におけるメディアの役割」では、サステナブルな報道は科学に基づいていなければならないのに日本のメディアには専門性が足りない、というお話がありましたが、それを解決するために海外のやり方に倣うとすれば、知見を持った異分野の新しい人材を積極的に採用する必要があり、そもそもの日本の終身雇用の考え方がハードルになるそうです。同日のPlenary「Regenerative Intelligence: Activating humanity to become a planet-positive species」での「今やっているサステナビリティは持続可能ではない」という言葉も、薄々感じていたことを突き付けられた衝撃で重たく響いたのではないかと思いますし、質疑応答で回答の前に「(核心を突いた鋭い質問で)ドキッとした」というような内容の前置きをしたパネリストがいたセッションもひとつやふたつではありませんでした。

求められているのは、今あるものの延長線上の「変化」ではなく、抜本的な「変革」なのです。それはそう簡単に成しえることではありません。小手先でビジネス的に対応しようとしている人も中にはいるかもしれませんが、そればかりではなく、それも分かった上でできるだけのことをしてきてはいても、進めば進むほど、本質的な課題に向き合い立ち向かわなければならず、リーダーたちはそこに足を踏み入れて想像以上の困難さに気づいてしまったのだと思います。早くから走り始めていた一部の完全な先駆者たちはとっくに認識していたのでしょうが、その感覚が表立って全体に共有されたように見えたのは今回が初めてでした。
トライして能動的な「レポーティング」を行うことで、仲間と情報が集まり、本当に乗り越えるべき「本質」的な壁が見えてきている。まだ道半ばで、ゴールまでの道のりははっきりしないほど遠いけれども、だからこそそこにたどり着くためには同志の力が必要であり、「おのおのの志」が重要になってきている。これが「RECENTER & ACCELERATE」をテーマとしたときの、現在の状況なのだと個人的には理解しました。

最後に
第7回サステナブル・ブランド国際会議2023 東京・丸の内のリポートの締めくくりとして、学生たちが、サステナビリティに関して企業や大人たちとの対話を真剣に求めていることと、心に残った次の言葉をお伝えしたいと思います。
「大きなことが始めからできるとは思っていませんでした。しかし、わずかな人のために何かができるはずだと思ったのです。たとえ、たった一人のためにでもです」
(Day1 Plenary「3 Zero Clubを立ち上げたいという私の強い思い」より)
私は現実的な解決策を考えるタイプなのですが、サステナブルに対し、脅威と希望を同じくらい感じることのできた2日間でした。
撮影(一部):サステナブル・ブランド ジャパン