2023.06.07
レポート

イギリス留学から学ぶ新しい視点 Vol.2

いつもと違う目線で見ると気づくことがある、というのはよく聞くアドバイスです。実際に筆者が1年間のイギリス留学中に目にした“いつもと違う目線”の情報をお届けすることで、読んでくださった方の気づきが生まれれば幸いです。

第2回はジェンダーについて

 

「あなたのpronouns(代名詞)を教えて」と言われたら、あなたはどう答えるでしょうか。

大学院の初回授業はたいてい自己紹介からはじまるのですが、pronounsを問われた私は、意味がわらず自己紹介項目からすっ飛ばしてしまいました。これは「代名詞で呼ばれるときになんと呼称してほしいか」という意味で、「my (gender) pronouns are she/her(私が代名詞で呼ばれるときは、彼女は/彼女の……と呼称してほしい)」などと伝えるべき、なのだそうです。よく見ると、オンライン会議ソフトのプロフィールに「pronouns」欄があったり、SNSのプロフィールに「she/her」などと記載している人がいたりすることに気がつました。さらにはっとさせられたのは、クラスメートの中で「they/their/them」と呼んでほしい、と自己紹介があった時です。

調べてみると、ノンバイナリーの方が希望することがある呼称で、2019年にはアメリカで辞書にも「自分の性別をnonbinaryと認識している単一の人物」との定義が追加されたのだそうです。同年には、イギリスの有名な歌手が、自身はノンバイナリーであることと、代名詞は「they/their/them」で呼んでほしいと表明し、一気に普及したこともわかりました。2020年の東京オリンピック・パラリンピックでは、数名の選手が性別をノンバイナリー、代名詞を「they/their/them」で選手登録書へ意思表示していましたが、解説者が誤った呼び方をしてしまい、視聴者から指摘が入ったのだそうです。報道側は、誤った呼称での解説を謝罪するとともに、選手登録書の報道資料への反映と、解説者への認知徹底を約束していました。

 

 

代名詞をあまり使わない日本語話者だから考えもしなかった!と当初はとらえていたのですが、むしろ日本語の方が性別だけでなく、年齢や間柄で呼称を変えているんですよね。私も「先輩とつけずに~さんって呼んで」「苗字ではなく名前で呼んで」などと伝えたことはあるものの、性別にかかわる呼称については言及したことがなかった自分に気がつきました。自分が気にしていなかったということは、気にしてほしいと思っている誰かの思いに気づけなかったこともあるかもしれません。他にも「お兄さん」「お姉さん」「旦那さん」「OL」など性別が入った呼称を使いがちではないでしょうか。職業の呼び方が性別を入れないように変化していることはわかっていたつもりでしたが、英語での配慮にふれて改めて見直してみると、まだまだ配慮に欠けた言葉が潜んでいることに気づかされるかもしれません。

 

他にも驚いたのはトイレ、そして、生理用品です。

まずトイレですが、驚いたのは、イギリス政府が2022年7月に「新しく建設する公的建造物は男女別のトイレを設けることを義務付ける」と定めたことです。個人的には、大学に設置されているAll genderトイレ(多目的トイレの1室が割り当てられることが多い)や、フィンランド旅行中に体験した、図書館の男女共用トイレに勝手に“先進性”を感じていたのですが、それに反するような判断がイギリスではされたのです。この法案は約1年前(2021年5月)に提案されたそうですが、女性の安心や利便性と、トランスジェンダーやノンバイナリーの方が利用できない懸念の狭間で議論され続けており、最終的には前者が重要視されたことになります。どちらの主張も納得感があり、ただ勝手に“先進的で良い”ととらえていた自分を顧みることとなりました。また私にとっては、こうした議論が身近で活発になされていたこと自体も、衝撃的でした。例えば、通っていた大学ではこの議論を巡って教授に対する学生デモが起こり、デモ隊が大学名のモニュメントに火をつけたことで消防車を呼ぶ騒ぎとなり、騒動の末、教授は辞任に追い込まれました。学生デモのほとんどは学部生の若者で、火をつけて抗議するほど真剣に教授と意見を交わし合っているという状況が衝撃的だったのです。

 

 

そうした意見を表明する精神や方法論を学びに行ったこともあり、あらゆる場面で勉強になったのですが(大学内だけでも1カ月に1回は何かしらのデモやそれにともなうストライキなどがあり、構内はプラカードやポスターにあふれ、最寄り駅から大学へ続くトンネルにはグラフィティや抗議ポスターが所狭しと貼られていました)、抗議活動の成果が印象的だったのが、生理用品の非課税化です。

イギリスではあらゆるものが高額だというイメージでしたが、生理用品はとても安く、1ポンドショップでも購入できますし、頻繁に無償提供イベントが開催されていました。そもそもイギリスでは生理用品は軽減税率の対象であり、2001年からは一般税率が20%のところ、生理用品は5%でした(2019年にカンヌライオンズのPR部門グランプリとなった「tampon book」が話題となったドイツでは、この年まで軽減税率対象外でした)。とはいえ税はかけられており、そのことに対して政府も撤廃の方針で動いていたものの、EUにおける制度が足かせとなって完全撤廃には至らなかったのだそうです。それがBrexitをしたことで進展。イングランドでは2019年から病院の全患者に対して生理用品を無償提供していましたが、2020年からは公立の教育機関通学者(小学校~高校まで)へも提供が決まりました。スコットランドはイングランドよりこの動きが進んでおり、2020年11月からは世界で初めて、旅行者を含む全ての人に無償提供されることとなったのです。Brexit自体はいまだに議論が決着しておらず、イギリス人に聞いてはいけないトピックらしいのですが、「本件については、Brexitしてよかったと胸を張って言えることだ」と、イギリス人のクラスメートが言っていたのが印象的でした。さらに私が驚いたのは、税が撤廃される前も、大手スーパーやドラッグストアでは、店舗で販売する生理用品の税金分は顧客に代わって企業が払っていた、という実績です。

 

日本では、生理用品が軽減税率の対象ですらないことは有名です。生理用品は数百円の品物であり、例えば携帯電話の料金など数千円のものと比較して、払えないのはおかしいと指摘する声もよく聞きますし、理にかなっているようにも感じます。しかし、親に「買って」と言いにくいけれど、ないと健康にかかわる商材で、女性だとどうしてもかかってしまう出費でもあります。その必要出費を、健康のために、どんな経済状況の女性にとっても平等にできるか。この問題について真剣に検討できる社会か否かが、試されている気がしてなりませんでした。

 

第1回「リサイクルやプラスチックごみについて」はこちら

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